2014.11/15 [Sat]
長沢樹『冬空トランス』
![]() | 冬空トランス (樋口真由“消失”シリーズ) 長沢 樹 青山 裕企 KADOKAWA/角川書店 2014-03-26 売り上げランキング : 139449 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
★★★☆☆
屋上観覧車、校舎、放送室……様々な場所に仕掛けられた3つのトリック。可愛すぎる名探偵・樋口真由と、弱小映画研究部部長・遊佐渉のコンビが、導き出した正解は!? 青春のひと時を謎解きに捧げる若者たちの本格ミステリ。
「樋口真由“消失”シリーズ」第3作。
『夏服パースペクティヴ』で語り部を務めた遊佐渉と“可愛すぎる名探偵”こと樋口真由との出逢い、真由が藤野学院に転校するキッカケとなった事件、第1作『消失グラデーション』の後日談の3本から成るシリーズ初の中短編集です。それぞれ日常の謎、密室状況からの転落事件、閉鎖空間からの脱出ゲームと謎解きのジャンルに統一性はなく、既刊の合間を縫うような飛び飛びの時系列や謎めいた万能キャラ前提のストーリーであることからも、あくまでもシリーズの読者を対象とした作品となっています。
3作品とも大なり小なり物理トリックが鍵となってはいるものの、文章から状況を読み取るのが些か難しく、あまり映像のアングル等に明るくない読み手にとってはぱっと聞いてトリックの仕組みを頭の中に思い描き難いのが瑕でしょう。設問時以外に解決編でも図版を挿入した方がより親切だったと思います。
自分の中で長沢樹は読み始めるのに覚悟のいる作家のひとりで、表紙の爽やかさやキャラクター設定のポップさに関して、内面描写が非常に重たい。いわゆるイヤミスのようなドロドロした後味の悪さやほろ苦な読後感とはまた異なり、長沢ミステリはとにかく尖っています。剥き出しの刺に素手で触れているかのような研ぎ澄まされた痛覚、生々しく荒々しい感情の滾りが全篇に滲んでいるのです。それは探偵役である真由のキャラクターを見てもそうですし、その他の登場人物も常に自傷行為に近い劣等感と悩みと嫉妬の間で傷付き、揺れ動いている。
表題作「冬空トランス」にもその傾向はかなり顕著に出ており、事件の原因となった人物のクズっぷり、性質の悪さが棚上げにされてひたすら被害者へと向かう怒りと嫉み、殺意と追求が歪とすら認識されず、関係者の誰しもが当然のものとして抱いてしまっているところに気持ち悪さと居心地の悪さ、もはや「狂気」という言葉では到底済まされない壊れ具合は胸糞悪いを通り越して胃がキリキリと痛んでくるほどです。
新本格においては「人間が描けてない」とよく言われたものですが、ここまで徹底して鋭利な感情を突き付けられると逆に逃避に走って御免被りたいと感じるのも正直なところ。この痛々しいほどの内面描写が作者の武器であり特徴であるのはわかるのですが、それでも青春ミステリとして手を出すには精神的にキツく、登場人物らのノリの良い掛け合いやリアリティから浮いたキャラ設定とは些か食い合わせが悪い気もします。
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