2014.11/11 [Tue]
内山純『Bハナブサへようこそ』
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★★★☆☆
僕――中央(あたりあきら)――は、大学院に通いながら、元世界チャンプ・英雄一郎先生が経営する、良く言えばレトロな「ビリヤードハナブサ」でアルバイトをしている。 ビリヤードは奥が深く、理論的なゲームだ。そのせいか、常連客たちはいつも議論しながらプレーしている。いや、最近はプレーそっちのけで各人が巻き込まれた事件について議論していることもしばしばだ。今も、常連客の一人が会社で起きた不審死の話を始めてしまった。いいのかな、球を撞いてくれないと店の売り上げにならないのだが。気を揉みながらみんなの推理に耳を傾けていると、僕にある閃きが……。
第24回鮎川哲也賞受賞作。
ビリヤードの元世界チャンピオンが営む店を訪れる常連客と従業員らが、身近で起こった殺人事件についてあれやこれやと討論しながら推理する安楽椅子探偵ものミステリ。メインキャラクターのプロフィールは話が進む中でさらりと語られはするものの基本的に普段の生活は謎に包まれており、主人公こそ語り部の中央ではありますが、実際には「ビリヤードハナブサ」という場こそが重視され、店主とバイト、常連客をひっくるめた縁あって集った人々がひとつの共同体として探偵役を担っています。
収録されているのは全4篇。短編が3本と、それらの短編をすべて合わせたものと同じくらいの中編1本という構成になっていて、各話のタイトルにはそれぞれの内容にちなんだビリヤード用語が冠されています。
が、そうした趣向によって読者に対して謎解きが始まる前から何がヒントであるのか丸わかりな状態になってしまっているのは宜しくない。ミステリというのは巧妙に忍ばされた伏線が解決編で初めて浮かび上がってくるから面白いのであって、いまから〇〇に擬えた話をしますとネタを割られた上でこれ見よがしに用語解説されたところで、謎解きに使いたいからわざわざ教えているんだな、と冷めた目で受け取らざるを得ません。さり気なさが不足しているのです。
加えて前半3篇の真相はどれこれもこれもありきたりなものばかりで、いくらビリヤードと絡めているといっても事件そのもの求心力がなさすぎる。魅力的な謎も目を見張るような論理も驚くような真相もなく、ただ「こんなビリヤード用語をモチーフにしているんだよ」だけでは読者の心を引っ張ってはいけないでしょう。
最終話となる「マスワリ」は中編だけあって力も入り、唯一独創性が感じられるお話になっていましたが、この作者の光る部分はどこなの?と問われてこれといって出てこないのは新人賞受賞作としてどうなんでしょうか。
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