2014.11/06 [Thu]
東川篤哉『純喫茶「一服堂」の四季』
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★★★★☆
ぬるいですわね! まったく、ぬるすぎますわ。まるで『一服堂』のアイス珈琲のように。
そのような生ぬるい質問には、わたくし、まったく答える気がいたしませんわ!
珈琲の味は、いまひとつ。でも推理にかけては一級品。古都・鎌倉でひっそりと営業する古民家風喫茶「一服堂」。エプロンドレス姿の美人店主は、恥ずかしがり屋で人見知り。しかし、事件となるとガラリと人が変わってしまう。動機には一切興味がない安楽椅子型の名探偵が「春」「夏」「秋」「冬」の4つの事件を鮮やかに解く。
喫茶店の美人バリスタがお客の持ち込む猟奇殺人の話を聴いて、交わされる推理の不甲斐なさに憤慨しつつ謎を解く安楽椅子探偵もの連作ミステリ。2013年~2014年に『メフィスト』に掲載された4篇を1冊にまとめた作品です。
人見知りの店主と常連客の織り成すミステリ、極めつけはこともあろうに舞台が鎌倉という誰がどう見ても『ビブリア古書堂の事件手帖』や『珈琲店タレーランの事件簿』の流行に便乗したとしか思えない設定で臆面もなく書いてしまうのはさすがというべきか。著者自らインタビューでそのことを半ば認めてなおそれが許されるのは、東川篤哉の芸風(?)の成せる業でしょう。
本書では磔やバラバラ殺人、密室などどの短編においても血生臭く猟奇的な香りが漂っているのが日常の謎をメインとする類書との大きな違いであり、回を重ねるにつれてどんどんコメディ要素がエスカレートしていくのも特徴のひとつです。後半ふたつはあまりの振り切れっぷりに笑う外ありませんでした。
かと思えば、最終話でしれっと大技をぶちかましてくれるのが侮れないところで、これによって小説のタイトルは勿論、あからさますぎる設定や装丁にまでも重要な意味を持っていたことに気付かされるばかりか、『ビブリア』や『タレーラン』に寄せたセールス自体が著者の企みのうちであった可能性すら湧いてきて、仕込みの尋常でない周到さに舌を巻きます。
しかもそれが単なるサプライズに留まっているのならありきたりな作品で終わったのですが、件の仕掛けが密室に開いた抜け道を覆い隠す役割も果たしているのです。いや、むしろ謎解きにおける効果を考えた場合、密室トリック成立のために付随した1パーツであるきらいの方が強く、その「補助」を目的にすべてが作られているのです。これはちょっと凄すぎる。
昨今、こうした手法を安直に用いた小説がとにかく多く出回る中、そこに課したミステリ的意義と労力の大きさから高く評価されて良い作品だと思います。
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