2014.10/27 [Mon]
翔田寛『探偵工女 富岡製糸場の密室』
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★★☆☆☆
明治新政府が総力を挙げて建設した富岡製糸場。開業翌年の明治6年、時の皇太后と皇后がその地へ初めての行啓をする直前に、工女が死体となって発見された。開業前に流れていた、「工女になると生き血を吸われる」という奇怪な噂は本当だったのか。さらに一人の工女が忽然と姿を消し、工場に暴動の危機が迫ったとき、彼女たちの若き傍輩が立ち上がる――。
今年、世界遺産登録されブームとなった明治時代の富岡製糸場を舞台にした時代ミステリです。明治維新後の日本を担う最重要産業の中心施設となるべく操業を開始し、内外の関心を一身に受ける富岡製糸場へ皇后、皇太后が訪れる日を前に密室状況下で遺体となって見つかった友人の弔いと父への嫌疑を晴らすため、工女であり工場長の娘でもある勇が謎を追って奔走します。
事件と並行して当時の政府を取り巻く情勢や工女たちの生活スケジュール、製糸作業のあれこれが細かくもわかりやすく描かれているので、物語を楽しむと同時にそもそも富岡製糸場とは何ぞや?といった疑問にも答える入門書の役割も果たしてくれます。
密室と聞いてまず思い浮かべるのはいわゆる「針と糸」であり、舞台が舞台だけにそこをどうアレンジして魅せてくれるのかと期待していましたが、これが大きな罠でして。密室としては「針と糸」よりも序の口以前な真相に期待を大きく裏切られることとなりました。
読み終えて初めて気付かされるのですが、本書は決して本格ミステリなどではなくあくまで時代小説のストーリーを転がすことが目的で人死にが出ているだけであって、ミステリ好きの歓心を買う冒頭の工場見取り図や作業工程表といった図版の数々も、謎解きのためというより歴史資料として付記されているにすぎません。あまりのそれっぽさにこちらが勝手に勘違いしているだけで、そもそも著者はミステリ小説を書こうとしていないのです。何とも勘違いを誘う思わせぶり且つ期待外れなパッケージ!
歴史小説を読みたい向きには全然アリなのでしょうけれど、何ぶん求めているものが違いすぎる。ミステリを第一義に考えている層はタイトルに惑わされることなくスルー推奨です。
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