2014.10/26 [Sun]
幡大介『股旅探偵 上州呪い村』
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★★★★☆
トリックなんてもんは、もう出尽くしておりやす。言ってみれば出涸らしの茶みてぇなもんなんで。
いつもと同じ茶葉の、味わいの薄くなっていく一方の茶葉に、砂糖を入れたり、塩をまぶしたりして、
一見、目新しそうに味わいを変えているだけでござんすよ
渡世人三次郎の行くところに事件あり。中山道倉賀野宿で若者が、村の名主屋敷の三姉妹の死を予言し果てた。よじれたシダ、滝壷に吊るされた女、モウリョウと化す棺の骸……怪異に満ちた火嘗村を最大の悲劇が襲う! 三度笠の名探偵は、すべての謎を解き明かすのか!?
一昨年に刊行されるや話題を呼んだ、幡大介による時代小説×本格ミステリ路線作品の第2弾です。既に自死とわかっている案件をどうにか隠蔽するためにそれらしい嘘を捏造することを命題とし、連作短編集としての趣が強かった前作とは変わって今度はがっつり長編ミステリ。それも、不穏な言葉を遺して亡くなった名主の息子の故郷を訪れた渡世人が、いわくありげな三姉妹と村人たちをめぐる連続猟奇殺人事件に巻き込まれる王道直球の寒村ものです。
メタとネタに彩られた本編のはちゃけ具合は前作以上で、ミステリあるあるへの言及は元よりSFプロパーへの手厳しいツッコミ、果てはクトゥルー神話まで、会話文も地の文も構うことなくジャンルを跨ぎ詰め込めるだけ詰め込んだ暴走具合に笑いが止まりません。惨劇を未然に防ぐために探偵を雇っているのに、事件を発生させなければ物語が進まない都合上、わざわざ隙を作ることに腐心するくだりが最高すぎる。どんなジレンマだ。
かと思えば、そうしたやりたい放題なお遊び部分が伏線にもなっていて、なお且つ読者の目を眩ませるカモフラージュも兼ねているから馬鹿にできません。
最終的な真相やそこに用いられているガジェットはこちらも半ば王道の“お約束”であり、それもまたミステリ読みをにやりとさせる一方で、ネタをネタにしか感じさせないことで読者の思考を「ギャグである」という認識に留めさせ、その先の推察にまで向かないようにするあたり、なかなかどうして強かさの光る作品でした。
いわゆる金田一的な名探偵像に対してひとつの解答を示したラストにもただのパロディ以上の意義を感じます。
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