2014.10/20 [Mon]
西尾維新『掟上今日子の備忘録』
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★★★☆☆
ゆめゆめ忘れません。大丈夫です、私、記憶力はいいほうなんです――一日以内でしたら
掟上今日子――またの名を、忘却探偵。すべてを一日で忘れる彼女は、事件を(ほぼ)即日解決! あらゆる事件に巻き込まれ、常に犯人として疑われてしまう不遇の青年・隠館厄介は今日も叫ぶ。「探偵を呼ばせてください―!!」スピーディーな展開と、忘却の儚さ。果たして今日子さんは、事件の概要を忘れる前に解決できるのか?
「忘却探偵」シリーズ 第1作。
西尾維新による久々のミステリ新作。たった一日しか記憶が保てないがゆえ事件を最速で解決する探偵・今日子さんと、道を歩けば事件に遭い、無実にも関わらず必ず疑いを掛けられる青年の日常の謎もの連作短編集です。
設定こそキャッチーではありますが内容の方は極めてシンプル。「戯言シリーズ」や「化物語」のようにキャラクターの掛け合いや言葉遊びが目立つ作品でもない、雰囲気としては『トリプルプレイ助悪郎』『難民探偵』 『少女不十分』あたりと似た落ち着いた作風です。作中では作家の年齢と作品へのスタンスの関係について触れられる場面もあって、やはり最近の西尾維新の小説は若さとノリに任せた書き方から少し変わってきているのかな、という思いを新たにさせます。
本書では4つの事件を取り扱っており、“盗まれた100万円を取り戻すために犯人からの1億円の要求に応じる被害者”という設問を掲げた第2話は、いかにも日常の謎らしいシチュエーションの奇異さと解決で特に面白く、与えられたヒントから推理作家の遺稿を見つけ出す第3話の宝探し共々、大変楽しめました。
一方でバックアープデータ盗難事件を描いた第1話と、石崎幸二『日曜日の沈黙』を髣髴させる第4話、第5話は情報開示に公正さを欠いている部分があり、発想自体は良くとも読者が自力で真相に到達できる本格ミステリには成り得ていません。
しかしながらこうした構造の作品を読んだときにまずは思い浮かべるのは昨今流行りのライトミステリーと呼ばれるジャンルで、実際本作は非ミステリ読者や女性にも人気のある『ビブリア古書堂の事件手帖』や『珈琲店タレーランの事件簿』などとかなり近しい印象を受けます。西尾維新といえばライトノベル好きな人間やミステリ読み以外には見向きもされない一種マニアックな作家であるだけに、このような一般ウケしそうな作品を上梓したことは意外でした。
メディアワークス文庫や新潮文庫nexあたりから出していれば従来とはまったく違った読者層が付きそうなだけに、講談社からソフトカバーでの刊行は少し勿体なかったかなとも感じます。
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