2014.10/19 [Sun]
米澤穂信『満願』
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★★★★☆
人を殺め、静かに刑期を終えた妻の本当の動機とは――。驚愕の結末で唸らせる表題作はじめ、交番勤務の警官や在外ビジネスマン、フリーライターなど、切実に生きる人々が遭遇する6つの奇妙な事件。
米澤穂信によるノンシリーズもののミステリ短編集です。収録されている小説はすべて独立したものとなっていて、互いに関連性はありません。どの短編も残酷でありながら美しく、物語を通して人間の心の奥底にあるどろりとした想いが覗き見える点が唯一、すべての作品に共通しています。『儚い羊たちの祝宴』でも見せた塗り込めるように渦巻く黒々とした感情と後味の悪い結末は本作においても健在で、米澤作品の根底に流れるビターな部分を抽出、凝縮した作風はまさしく著者の面目躍如、本領発揮といえるでしょう。
正直なところ、いくつかの話ではオチに見当がついたり、話の筋が読めるものもあるのですが、小説としての落とし方が抜群に上手いため、読み終える毎の充足度はかなり高いです。これは技術的な「巧さ」というよりは物書きとしての「上手さ」によるところが大きく、言葉の選び方のひとつひとつ、物語の幕引きで逐一魅せてくれます。
その上で巧妙にミスリードを誘いつつ冒頭からラストまでの流れが見事な「万灯」や、謎解きの末に待っている秘された動機が可能性として提示された瞬間、悪意の大きさとその信念の強さに込められた底知れぬ怖ろしさを読者に突きつける表題作「満願」と、ミステリ的にも粒揃いで高水準。本ミスベスト10圏内は堅いでしょう。
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NoTitle
良く練られて無駄のない文章。
どれも素晴らしかったです。
トラックバックさせていただきました。
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