2014.10/10 [Fri]
月原渉『黒翼鳥 NCIS特別捜査官』
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★★★★☆
不躾な云い方をすれば、安全性に疑問があると声高に叫ぶのは、一部の人たちだけです。
その一部の人たちは、安全性にまつわるすべてのデータを無視するか、まったく見ようとしません。
感情論に突き動かされているだけです。
洋上に浮かぶ米軍艦艇から飛び立ったオスプレイ。乗員は米海兵隊員数名と技術者、そして装備調達部門の自衛官一名。事件は水平加速への移行中に起きた。狭い機内で全員着席中だったにもかかわらず、被害者の自衛隊員は正面から二度刺されて殺されていた。どこからも発見されない凶器。直前に流れた不思議な歌声。なぜ事件はオスプレイで発生したのか。米軍内の犯罪を捜査するNCISが辿り着いた真相とは。
「NCIS特別捜査官」第2作。
訓練飛行中のオスプレイ内で殺人が起きるミリタリーミステリ。設定こそキャッチーですが、事件そのものはまさしく本格らしさ満点で、衆人環視と安全ベルトによる拘束に加え、空飛ぶ閉鎖空間という二重三重にも敷かれた密室状況の不可能性が読者の興味を牽引します。前作『月光蝶』と同様、在日米軍の捜査官が主役なこともあって、事件を巡る日米間の軍事的駆け引きや基地問題の是非等の問題提起が為されるのも本シリーズの大きな特色です。
実際、このミリタリー要素は作品においてかなりの強みであり、ネタだけ見ればありきたりでオーソドックスな本格ながら、現代日本における時事問題や斬新な舞台(本作の場合はオスプレイ機内)で装飾することで、鮮烈な印象と訴求力を備えたミステリへと生まれ変わっています。
その一方で一旦ニュース報道が過熱している時期がすぎてしまうと、どうしてタイミングを逸した感が否めなくなってくるのも時事ネタを取り込んだ際の宿命でしょうか。
中盤には大規模な立ち回りとアクションシーンも用意され、登場人物の殆どがアメリカ人で尚且つ軍人でもあるストイックな作品だけにサスペンスものの洋画を見ているようですらあります。
エンタメ性も抜群で本格としても良し。社会派要素もあり。2014年の世相を色濃く反映した作品として、見方によっては本年を代表する小説といえるかもしれません。ミステリクラスタに限らず、幅広い層にオススメできる良作です。
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