2014.10/08 [Wed]
長沢樹『武蔵野アンダーワールド・セブン -多重迷宮-』
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★★☆☆☆
可憐な美貌を持つ財閥令嬢から依頼された“鱗雲荘”の調査。有力政治家として名を轟かせた彼女の祖父が遺したその建物の地下には、鍾乳洞を利用して建造された巨大なシェルターが存在していた。そこで七ツ森神子都をはじめとする地下世界研究会のメンバーが屍蝋化した遺体を発見した瞬間、恐るべき連続殺人の幕が開く……!
「武蔵野アンダーワールド・セブン」第1作。
横溝賞作家・長沢樹による、南北が分断されたパラレルワールドの日本を舞台にした新シリーズ。“禁止区域”で育ち、大量殺戮者の疑いが掛けられている少女・七ツ森神子都と、彼女の監視者であり庇護者でもある仲間たちが違法に作られた地下建造物内にて、連続殺人に遭遇するクローズド・サークルもののミステリです。
のっぴきならない情勢が続き、いまなお合法違法を問わず日本各地に膨大な数の地下建造物が埋まっているという特異な世界観、異質な舞台設定の中にあって展開される事件は極めて王道な“吹雪の山荘”で、だからこそそうした特殊な要素を活かし切れていない感も強いです。わざわざ史実と別の道を辿らせる意義が薄く、これが現代日本を舞台にした物語であったところで何の支障もありません。設定が設定でしかなく、謎解きにまったく寄与してこないのです。
主題として掲げられたホワイダニットからも大した驚きは得られず、まさかと危惧しながら読んでいると、思ったとおりフーダニットの根幹を形成するカラクリがラノベミステリでよくあるアレだというのも肩透かし感が半端ない。こんなオチはもはや何番煎じかというほどありふれているわけで、いまさらドヤ顔でやるようなネタではないでしょう。
デビュー作『消失グラデーション』のときもそうでしたが、思うに長沢さんはキャラクター第一でミステリ部分は二の次――まず最初に探偵のキャラ付け、属性決めが頭にあって、そこからどうやって魅せようかと考えた末にミステリを構築していっている気がします。
以前に『夏服パースペクティヴ』のような良作を輩出してはいるものの、今作1本で作者のミステリ作家としての技量に疑問符が付くレベルで、大変不安になりました。
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