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グレッグ・キイズ『猿の惑星 ファイヤーストーム』

猿の惑星 ファイヤーストーム (角川文庫)猿の惑星 ファイヤーストーム (角川文庫)
グレッグ・キース

KADOKAWA/角川書店 2014-08-23
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★★★★☆
ふたりの言ったことは嘘で、ジェイコブスが言ったことが真実だ。
コバになされたあらゆる行為の理由は単純明快だった。
その理由は、彼らが人間だからだ。彼らが人間で、コバが動物だから。

数百頭もの猿がゴールデンゲート・ブリッジで警察の封鎖を突破し、北側の森に逃げ込んだ“モンキーゲート事件”のあと、街では原因不明で致死率の高い伝染病が広がりはじめていた。一方、森に逃げ込んだシーザー率いる猿たちは、自由を手に入れたのもつかの間、食料にも事欠くなか、執拗な人間の猛攻撃を受け疲弊していた……。


 『猿の惑星:創世記』の5日後から始まる人類社会崩壊のきっかけを描いたブリッジノベル。「猿惑」シリーズ第7作『猿の惑星:新世紀』の公開に併せて刊行されたオフィシャル小説の邦訳版です。
 作者がグレッグ・キイズ、訳者は富永(娘)という最強タッグだけに「スター・ウォーズ」ファンとしては歯痒いところ。この労力が少しでも「SW」の方に回っていれば……ぐぬぬ。しょうがない、『EP7』の公開時に期待しましょう。よろしくお願いしますよ、角川さん。

 前置きはさておき。今度公開される『新世紀』の舞台は前作の10年後であり、既に人類が滅びかけているという状況から始まります。その過程は『創世記』のエンドロール映像からでも大方想像はつきますが、具体的にどんな事件があって人類社会が崩壊していったのかというきっかけの出来事が本作になるわけです。
 猿の進化を促し、人間を死に至らしめる“猿インフルエンザ”の流行をめぐり、暴徒と化す民衆、次々に倒れてゆく市民たちと彼らに対処する医師、正体暴きに奔走する新聞記者、何も知らされず“モンキーゲート”事件の猿たちの捕獲に乗り出す学者と元傭兵――様々な立場の人間の目を通して描かれる人類崩壊の日へのカウントダウンはパンデミックもののウイルス・パニックの様相を呈し、従来の「猿惑」に脱獄もののエッセンスを加えて新たな切り口を生み出した『創世記』と通ずるものがあります。

 一方で本作では猿側、人間側それぞれにジェネシス社で実験動物として扱われていたコバ、かつて民族紛争で家族を虐殺されたマラカイの過去が大きく掘り下げられているのもポイントです。純真だった頃の幼いコバが手話を使えないチンパンジーを“大きな毛虫”と表現し、自分とは違う気味の悪い生物と捉えていたくだりはかなりの衝撃で、話せる猿と話せない猿は分けて考えられるべき存在なのか、という問題提起から事件を通してどちらも“同じ猿”であるという認識へと統合されてゆく過程は「猿の惑星」の根底テーマでもある人種差別の問題を髣髴とさせます。
 マラカイはマラカイで民族間の諍いに家族を失った過去と共に、おじと共に食用或いは収入のためにゴリラやチンパンジーの密猟をしていたことが明かされ、シーザーとの邂逅が殺される直前の猿たちの瞳に見た感情にオーバーラップし、ここでもまた猿とヒトという“人種”の差が見えてくる。
 同じように感情を持ち、同じように考えて行動しているハズなのに、手話を使えないというだけで/猿というだけでヒトと区別しても良いものなのか。かつての作品で用いられたメタファーほど明示的でないにせよ、そこに内包されている論旨は極めて明確であり、それこそが「猿惑」の「猿惑」たる所以なのです。

 新作でキーマンとなるドレイファスの野心家ながら人々の安全を第一に考える良識派である面も存分に描かれ、彼を襲った絶望とその性格がわかっているだけに、映画への理解もより深まることでしょう。
 人類社会が崩れ去っていく過程を記したパニック・サスペンスとして、救いようのない悲劇の物語として、独立した単体の作品としても相当読ませる内容となっています。
 『新世紀』を観に行く前には必ず押さえておきたい一作です。むしろ、これこそ新シリーズの第2弾として映画化されるべき。それほどまでに出来が良く、素晴らしいノベライゼーションでした。


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はろーすみす

Author:はろーすみす
シリーズものも平気で数年寝かせる積読家。本格ミステリとスター・ウォーズ小説を中心に読み漁り、新刊・話題作はあまり追っていません。

好きなミステリ作家は古野まほろ、はやみねかおる、西尾維新、霧舎巧。
ジャンル外では築山桂と小川一水。
講談社ノベルスをこよなく愛す特ヲタ。

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