2014.09/09 [Tue]
倉阪鬼一郎『波上館の犯罪』
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★★☆☆☆
死者の呪いなんて言ったら大時代的だけど、容疑者リストに波丘駿一郎の名は不可欠だと思うの。
あんな死に方をしたパパの亡霊はまだこの館――波の上の館のどこかにとどまっていて
復讐の機会を狙ってるのかもしれない。
とある半島の近海に浮かぶ小島に建てられた、白亜の洋館。波に浮かんで見えるその異様な建物は、波上館と呼ばれていた。館主の芸術家・波丘駿一郎が死を迎えた後、館では元妻の千波、元執事で千波の再婚相手となった間島、駿一郎の長女の香波らが、打算にまみれた暮らしをしていた。ある日、香波が何者かに自室で刺殺される。放浪の旅から呼び戻された次女の美波は探偵役に指名されるが、亡き駿一郎が犯人だとしか思えない殺しの手口に戦慄する――。
「交響曲」シリーズ 第6作。
倉坂鬼一郎が講談社ノベルスから毎年刊行する長い名前のバカミスではなく、位置付けとしては「交響曲」シリーズに
カウントされる一作。そうはいっても既刊との間に具体的な繋がりはなく、あくまでもテーマとしてのシリーズものということで、単体で読んでも何ら支障はありません。
小説そのものに途方もない仕掛けが施されたトンデモ系のバカミス執筆をライフワークとしている著者曰くの“代表作”だけあって、本作もまた莫大なる労力と時間、神経を費やして書かれたことが重々窺える代物でした。
しかし、それらの努力が必ずしも最良の結果を生んでいるかというと残念ながら否であり、予め「すべての文章とすべての言葉が伏線となっているミステリー」であることが明示されていることによって、余程鈍い読者でない限り、まず間違いなく10ページも読み進めればネタが割れてしまう本末転倒な状況を生んでいます。
主犯=共犯=探偵=記述者=被害者なるユニークな試みにしても、解決編より前段にてその狙いが登場人物を通して語られるため、何の驚きも創出しない。
不自然すぎる固有名詞、同じようなやりとりや言い回しの繰り返し、加えて大ネタを見透かしているのにも関わらず読まされ続ける非生産性 etc……。仕掛けを成立させるためにリーダビリティは極限まで削がれ、読み終えるのに普通の本の2倍は要します。
それでもミステリ部分が良ければまだ許せたものを、あまりにやっつけな“本筋”の謎解きには悲しくなるほどです。
あえて真相をちらつかせ、バカミス方面を期待しているファンに「バカだなぁ、お疲れさん」と言って貰いたいがためだけに書かれた完全内輪向けの自己満足作品と述べざるを得ない。たとえ仕掛けが物語的に意味のあるものだとしても、その他のすべてがダメすぎる。
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