2014.08/20 [Wed]
季刊『特撮ゼロ Vol.00 創刊準備編』

★★★★☆
ウルトラファンからすると「ギンガ」って複雑なんだよね。
最初に玩具ありきな製作委員会制度とか、あとは全体的な予算枠のしがらみとか。
とにかく今までのウルトラとは色んな意味で違う。正直な話、マニアが喜ぶウルトラという形ではありえない。
ただ、作り続けないと次がない。
怪獣&巨大特撮ってどうなのよ? 特撮業界の今と未来が分かる三大特集。怪獣王の復活~破壊神、ゴジラ復活/ギンガより愛をこめて~ウルトラマンギンガの挑戦/今、怪獣に挑む野郎ども~インタビュー集/『THE NEXT GENERATION パトレイバー』第3/4章に大怪獣出現か?/新番組と新作映画紹介/ゴジラの音楽とサントラ館/<真夏のコラム>子鼠屑ビデオを征服/巻末!読者と関係者が語る「私の好きな怪獣」アンケート ほか。
私も長年拝見させて頂いている特撮関連情報ブログ『特撮ヒーロー作戦!』の管理人であるツバサさんが発起人となって新たに立ち上げた新特撮雑誌の第1号(第0号?)です。
『パシフィック・リム』や『GODZILLA ゴジラ』が世界中でヒットを飛ばし、インドネシアでは石森プロやおかひでき監督を招聘した『Bima Satria Garuda』が制作されるなど、特撮の舞台グローバルなものへとなりつつある中で、現在の日本における怪獣特撮を取り巻く状況、そして何より製作者とファン両方の怪獣や巨大特撮に懸ける熱い想いをこれでもかと語りに語った一冊となっています。
コンセプトが“読ませる特撮誌”というだけあってビジュアル等の写真掲載は最小限。どこを開いても文字、文字、文字!な構成は、今後のエピソード紹介や出演者によるインタビュー、新作玩具の紹介がメインになりがちな既存の特撮“情報誌”とは一線を画し、客観的ではなくより主観的なスタンスで特撮を捉えているのが大きな違いです。
文章だらけといいつつ目が疲れたりもたれしない程度の適度な文字サイズも地味に嬉しく、読み応えはあるが飽きはこない。本体のぱっと見の薄さとは反対に大ボリュームな内容でした。
「ウルトラ」ファンとして注目したいのはやはり第二特集の「ギンガより愛をこめて」。ストーリー解説から総括コラム、アベ監督、脚本担当の小林雄二、制作統括の岡崎さんのインタビューに至るまで、これでもかと詰め込まれています。従来のような一年枠すら叶わなかった『ウルトラマン列伝』内での放送ながら、各人が各人ともメッセージ性を盛り込んで、“今後”を見据えて取り込んでいるのが印象的。基本的には好意的な記事の中、特集後記にて編集長が『ギンガ』を語る上で避けては通れない問題をぴりっと指摘しているのも良かったです。
仮にも円谷プロ関係者もコメントを寄せる商業雑誌に敢えてこんなタイトルを冠したのもチャレンジャーすぎる。好きな怪獣にスペル星人を挙げる早稲田大学怪獣同盟といい、この怖いもの知らずなフリーダムさは大手じゃなかなかできません。それもこれも愛ゆえ、です。
第三特集の怪獣ビジネス論も考えさせられます。いわゆる伝統的技法に物申す岡部Pの主張なんかは一部特撮ファンにとってはかなり過激に思われそうですが、言っていること自体は至極尤もで、ミニチュアによる見立て、着ぐるみに人間が入っていることを前提としたリアル感の押し付け――これらを暗黙的に了解したまま「わかる人だけわかれば良い」とのスタンスのまま来てしまったことに現在の巨大特撮業界の衰退の一端があるわけで。そうやって一般人を排斥して内に内に籠っていった作品に未来があるのか、新たに人を呼べるのかといったら疑問なんですよね。
ミニチュア特撮は素晴らしいけれど、だからといってCG全否定で良いのか。或いはCG至上主義でミニチュアを過去の遺物としてぶった切って良いのか。特撮ファンの間でも論争が過熱しがちな話題だからこそ、条件反射的に批判しないで改めて真摯に語らう必要があると思います。結局のところ、一定数のファン以上の多くの一般人が興味を示してくれないと
後には続けることができないのだから。
現在の新世紀「ウルトラマン」像が『ウルトラ銀河伝説』があったからこそのものであるのを鑑みると、つくづく岡部Pが円谷を去ったのが悔やまれます。
――と、全体的に満足度は高しですが、気になったことも2点。今回はインタビューが中心となっていたこともあって、ジャンル全体を俯瞰できるような評論や考察記事、突っ込んだコラムがあまりなかったのが残念といえば残念。関係者の口からはやや言い難い、編集長とツバサさんの特集後記のようなぶっちゃけトークをもっと紙面をとってコーナー化しても面白いだろうし、編集部員の意見がもっと色濃く反映されてきても良いと思います。
販路の拡大も課題ですね。現状、取次がトーハンでないと予約ができないようですし、大手ネット書店だとe-honかセブンブックスでの販売、直接通販(私はこちらから購入しました)に限られ殆ど店頭に並ばないため、購入へのハードルが少し高い。もうちょっと入手しやすくなると人にも薦めやすいですし、助かるのですけれど……。
大手の特撮誌がより多くの人に向けた『このミステリーがすごい!』だとすれば、本『特撮ゼロ』はよりニッチにジャンルへ斬り込んだ『本格ミステリ・ベスト10』的な立ち位置といえそうです。
次回から始まる本格創刊も、コアでディープな企画を期待しています。12月といえばやっぱりランキングですかね?
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