2014.08/17 [Sun]
高里椎奈『うちの執事が言うことには』
![]() | うちの執事が言うことには (角川文庫) 高里 椎奈 KADOKAWA/角川書店 2014-03-25 売り上げランキング : 55722 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
★★★☆☆
君は信じてくれる人間しか信じられないの?
日本が誇る名門、烏丸家の27代目当主となった花穎は、まだ18歳。突然の引退声明とともに旅に出てしまった父親・真一郎の奔放な行動に困惑しつつも、誰より信頼する老執事・鳳と過ごす日々への期待に胸を膨らませ、留学先のイギリスから急ぎ帰国した花穎だったが、そこにいたのは大好きな鳳ではなく、衣更月という名の見知らぬ青年で……。
「うちの執事が言うことには」第1作。
新米執事と未熟な当主がコンビを組む上流階級系日常の謎ミステリ。
昨今のライトミステリブームの流れに乗って角川文庫より書き下ろしで始まった新シリーズです。メフィスト賞作家としての高里さんはキャリアの長い方ですが、高田崇史と同じくこれまで他社からは殆ど発表していない半専属状態の作家さんだっただけに、いきなりシリーズ化ありきでアナウンスされたのは意外でした。
ちなみに自分は「フェンネル大陸」と「天青国方神伝」しか読んでいないので、これが初の高里ミステリになります。
収録されているのはお屋敷からの銀食器窃盗、パーティーでのモデル殴打事件、遊園地からの誘拐の3本に、インターバル代わりの閑話を挟んだ全4作。日常の謎と呼ぶにはやや物騒ではありますが、主人公の花穎には以前にも数度誘拐された経験があったりと、上流社会ではあくまでも“日常”と呼べるレベルに留まっています。
基本的にどの事件もミステリとしての難度は高くなく、人物配置から犯人は大方推測可能。目の覚めるようなトリックが用いられるわけでも、驚くほどの真相が隠されているわけでもありません。
しかしながら、抜かりなく張られた伏線と推理のプロセスは鮮やかで、真相に見当が付いていてもなお“過程”で読者を驚かせるだけの巧さがあり、シンプルだからこそより一層にそれが際立ちます。
第2話「白黒羊と七色の鬼」での被害者の状況から犯人の行動を導き出し、そこからまた別の伏線へと繋げる流れ、第3話「ヘンゼルとグレーテルのお菓子の家」にて何気ない描写に隠されている非合理的な事実。伏線が回収される度に思わず、なるほどねと頷いてしまいました。
ミステリ読みが常々求めるような凄まじいインパクトを放っているわけではないのに、きっちり本格として作られている。一見軽くてもしっかりミステリであり、本格なのです。フェアとアンフェアの境界もあやふやななんちゃってミステリが氾濫することの少なくないこのジャンルにおいて、こうした作品は非常に貴重です。
設定面からも感じられるそこはかとないBL臭はさて措いて。「本格?何それ、おいしいの?」な人でも気軽に手に取れるミステリの入門編として、また本格読者も安心できる軽めのミステリとして、これ以上なく最良の1作に仕上がっています。侮るなかれ、オススメです。
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