2014.08/13 [Wed]
周木律『災厄』
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★★★★☆
どいつもこいつも、まったく信じられないくらいあっという間に死による。生き残りなんかほんのわずかだ。
致死率が高すぎるんだな、感染症にしては
高知県のとある集落で、住民全員が集団死する事件が発生。調査が開始されるが、同様の事件が付近の集落で続発、徐々にその範囲を拡大していた。厚生労働省キャリアの斯波は、政府内の対策本部で事件の原因をウイルス感染と主張するが、テロリズムだと主張する反対勢力に押し切られてしまう。本部の迷走に危機感を覚えた斯波は、原因究明のため自ら四国へと乗り込む。一方、斯波の同期で、かつて斯波に陥れられて広島の検疫事務所に左遷された宮野は、事件解決への道筋を描けないまま、被災者の救護に奔走していた。災厄に立ち向かうため因縁のふたりが再び手を取り合ったとき、浮かび上がる驚愕の真実とは――!?
『五覚堂の殺人』に続き今期2作目となる周木作品は、四国における謎の集団死事件をめぐるパニック・サスペンス。
デビューから1年ちょっとにして既に4作目、しかも講談社ではなく他社からの刊行というから驚きます。最近の角川はフットワークが軽く、どんどん本格作家を呼び込んでは書かせていますね。良きこと哉、良きこと哉。
突如として日本を恐怖のどん底に叩き落とした原因不明の集団死を軸に、災禍の拡がりを防ぐため奮闘する主人公、無能な政府上層部による理不尽な当てつけと妨害、妻と旧友との失った絆の再生といったパニックものの王道たる要素が散りばめられた本作は、あらすじから受ける印象も相俟って、一見するとシミュレーション系のSFパニックに思えます。事実、そうした方向性の既存の作品と比べても何ら見劣りしない出来であり、スリリングで緊張感のある展開の数々は読者を先へ先へと惹きつけます。
しかし、そこはメフィスト賞作家、単なるパニックものでは終わりません。ウイルス禍だとするには致死率が高すぎるし、テロ事件と考えるには犯行声明どころか怪しい人物ひとり出てこない。また、死亡した人の体内からは何の病原体も見つからない。どこをどうやっても崩せそうにない謎があらかじめ提示され、全体に撒かれた伏線を拾って合理的かつ意外性ある真相に着地させる。
本作の主題は一にも二にも災厄の正体当てにあり、そのメカニズム(how)と原因(who)を突き止める本格ミステリなのです。
しかも読者に対する情報開示は極めてフェアに行われ、用意された解答への納得度もすこぶる高い。本格ミステリとしての質の高さがサスペンスとして、物語としての面白さを何倍にも増し増して、完璧に両立しています。こういうジャンルボーダレスな本格はあまり見られないので、そうした観点からも非常に意義ある作品でしょう。
講談社の「堂」シリーズが平均値レベルながら展望性のない作風でどうなることかと心配していましたが(いや、好きは好きですけどね)思わぬ方向で新たな一面を見ることができました。
どれくらいの人間が手に取るかに依るものの、本ミス下位の20位圏内を充分狙えるクオリティです。オススメ。
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