2014.08/06 [Wed]
平谷美樹『小倫敦の幽霊 居留地同心・凌之介秘帖』
![]() | 小倫敦の幽霊 居留地同心・凌之介秘帖 (講談社文庫) 平谷 美樹 講談社 2014-03-14 売り上げランキング : 321144 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
★★★☆☆
幕末、四方を海に囲まれた出島のような横浜外国人居留地。同心・草間凌之助のもとに厄介な事件が持ち込まれる。イギリス人の居住地区、リトル・ロンドンの屋敷で女の悲鳴が聞こえるという。その悲鳴は原因不明で死んだ前の持ち主のメイドの幽霊なのか!? それから程なくして日本人がピストルで撃たれて殺される。死体の脇に転がっていたのが羊羹のように甘い固形物。異国情緒漂う幕末横浜で謎が謎をよび、事件は拡大していく!
幕末の横浜に設けられた外交人居留区画の同心が主人公を務める時代小説。移り変わってゆく時代の流れを色濃く映し出す異国情緒に満ち満ちた舞台と設定は、間違いなく従来の時代小説の延長線上にありながら、同時にアットホームでユーモア溢れる海外文学のような一風変わった読み心地も与えます。
元来、捕物帳というジャンルはミステリと非常に近しい位置にあり、事件が発生し→ヒーローである主人公が謎を解くために奔走する形式はそのままミステリと通じています。本作では空き家の幽霊騒ぎを導入に、探偵役の凌之助によって不可思議な出来事に合理的な説明がつけられるところはまさしく「日常の謎」のそれといえるでしょう。続く本題の町人殺害事件でも鍵となる証拠品の正体で読者を引きつける手法といい、“和製ホームズ”と銘打つだけあって一般的な時代小説に比べ真相解明により比重が置かれた作品です。
とはいえ、幽霊屋敷にしろ英吉利羊羹にしろ謎解きの難度はそれほど高くなく、特に前者に至ってはネタ的にはかなりありがちなものであるため、改めて読者を驚かせるのは少々難しい。がっつり本格として闘えるレベルにないのも確かです。ミステリというよりは殺人事件を軸に展開される冒険活劇と述べた方が相応しく、そうした面でも「ホームズ」らしいといえばらしいかもしれません。終盤の展開なんか、ちょっと『四つの署名』っぽいですしね。
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