2014.07/12 [Sat]
森晶麿『COVERED M博士の島』
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★★★☆☆
一方で、
瞬時に我々を捉える芸術体験のように、<モード>とはまったく別次元で美が存在するのもたしかだ。
私が目指す<人間芸術>は、
芸術が培ってきたものと医学の培ってきたものを統合して<うつくしい人間>を作り出すことにある。
知覚異常を野放しにした整形手術とは違う
人生に絶望していた僕は、新しい自分を手に入れるために、治験モニタ人材バンクのサイトにあった異様な募集に応募し、瀬戸内海のO島へ向かった。近年までO島には“鬼”が出ると噂され、周囲の住民も近づくことのない孤島だったが、東京から姿を消した若き天才美容外科医のM博士が購入し、研究棟を建てて究極の「美」を追究していた。そこには、二人の美しい女と博士の婚約者=レイコがいた。僕の手術後、M博士の部屋から死体が見つかる――。
『黒猫の遊歩あるいは美学講義』で第1回アガサ・クリスティー賞を受賞した作者のノンシリーズものミステリ。
かつてはその腕で名声を恣にし、スキャンダルの末に現在は自ら購入した島に引き籠って研究を続けている天才的美容外科医と、彼の治験を受けるために島に滞在している<スタディ>の元に、主人公が新たにやってくるところから始まる王道の孤島ミステリです。
謎の天才、美しき被験者たちとミステリアスな使用人、奇妙な建物、島に伝わる鬼の伝承、首なし死体――といかにもな舞台立てでいかにもな事件が起きるものの、M博士による美醜にまつわる論議や一切の穢れを排した世界は無菌室のような白さを感じさせ、新本格というよりもSFじみた印象を与えます。
事件の中核を成すトリックについてもその例外ではなく、設定を鑑みると充分アリだと思える反面、こと現実的な視点に立った場合、あまりにも超然としすぎていて「何でもアリ」状態に限りなく近くなってしまっているのが微妙なところ。納得できないわけではないけれど、そこはあと一歩ミステリらしい伏線の敷き方が欲しかったです。
話の展開や首切りの論理、密室の解法にこそ目新しさはないものの、構成部分はそれなりに練られており、登場人物たちの関係については上手に落としてくれています。ミステリとして最低限の驚きは確保できていました。
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