2014.05/28 [Wed]
映画『相棒-劇場版Ⅲ- 巨大密室!特命係 絶海の孤島へ』

★★★☆☆
以前警視庁特命係で杉下右京と組んでいた現・警察庁長官官房付の神戸尊が、杉下と杉下の現相棒・甲斐亨の元を訪ねてくる。神戸が特命係に来たきっかけは、「馬に蹴られて男性死亡」と書かれた新聞の三面記事だった。事故が起きたのは、ある実業家が所有する孤島・鳳凰島だった。その島にまつわる妙な噂が絶えないため、特命係に事故を手がかりに島を調査させよとの密命を警察庁次長・甲斐峯秋から受けていた。 (2014年 日本)
劇場版「相棒」通算第5作。
公開日に観に行ったのにいまさらながら感想記事をば。Season 12 終了から1ヶ月、本来であればオフシーズンに当たるこの時期に2年連続で新たなエピソードを拝めるとは、なんと恵まれていることか。さすがは東映のドル箱コンテンツ。興収的には敵が多いのでなかなか簡単に大ヒットとはいかないかもですが、なんとか頑張って「次」に繋げてほしいものです。
スピンオフを除くと劇場版シリーズの3本目に当たる本作は前作、前々作からガラリと変わって、南の島が舞台の孤島もの。いかにもジャングルなロケーションでありながら「東京都下の太平洋に浮かぶ島なので警視庁の管轄」という開き直った設定がいっそ清々しい。
寝台特急に豪華客船、嵐の山荘、寒村、歴史ミステリーーと、テレビシリーズ本編でもミステリにおける王道テーマをいくつも扱ってきただけに、まさに満を持しての舞台選択です。いくらスペシャルとはいえど、ここまで異質なシチュエーションをドラマ内で展開するのはなかなか難しいですからね。こうして劇場版でトライしてくれるのは嬉しい限りです。
とはいえ通常、絶海の孤島での殺人といえば、いかにも新本格の様相を呈しそうなものを、そうはならずにあくまで社会派路線を貫くところも実に『相棒』らしいアプローチです。
此度のテーマはずばり、国防問題。日本が周辺各国との間に軋轢を抱え、集団的自衛権やらヘイトスピーチやらで揺れ動いている「いま現在」に最も即した題材といえるでしょう。
自衛隊を辞め、独自に民兵組織として日夜訓練を行っている彼らの島で起こった一件の殺人。より大きなものを守るためひとつの命を犠牲にすることを必要悪と呼べるのか、防衛のための手段に絶大な力を保持することは間違っているのか。映画終盤では、いかにもネトウヨの皆さんが大憤怒しそうな「メッセージ性の高い」やりとりが交わされます。
しかし、だからといって条件反射のように左翼的なプロパガンダ映画だと決めつけてしまうのは些か乱暴で、この映画において犯人は感情的にわめき散らすわけでもなければ、頭のネジの外れた狂人というような描き方はされていないのです。あくまでも冷静沈着に、自分と自分たちの国を守るためにはどうするべきかを語っています。この点を見落としてはなりません。
犯人は右京さんに対し「平和ボケという病に冒されている」訴え、右京さんは犯人に「国防という流行病に憑かれているだけ」だと言い切る。双方の主張は平行線であり、どちらがどちらを言い負かしているわけでもないイーヴン――いやさ犯人からの問い掛けに確固たる答えを用意できなかったカイトくんを見るに、むしろ侵略に対抗するための戦力を持たないことが平和への道筋である論の方が押され気味ですらあります。平和主義の理想論だけでやってられとは思えないけれど、願わくはせめて平和主義の理想論でいたい。でも……と延々とループに入るのがこの問題の難しいところで、本作で行われているのはあくまでも疑問の投げ掛けであって「答え」ではないのです。そこを右京さんがこう述べたからプロパガンダだ!と声高に叫ぶのはちょっと短絡的というか、作品の本質を見誤っていると思うんですよね。
大体からして『相棒』というドラマ自体が犯人を捕まえても起訴できなかったり、事件解決が新たな事件の種を蒔いたりと勧善懲悪型の刑事ドラマではないですからね。主人公の主張が絶対の正義ではないのです。
謎解きミステリとしてはそれなりに伏線は張っているし、トリックそのものも悪くないのに、謎の提示が上手くない。どれが謎であり、何を解いてやれば良いのかの問題設定が予めできていないため、いざ右京さんの謎解きが始まっても完全においてけぼり状態に陥ってしまいます。この謎解きを披露したいのであれば、まず最初に遺体の状況がどう考えても馬に蹴られたものにしか考えられない旨を大々的にぶち上げ、人為的な可能性の低さをもっと強調しておかないとダメダメです。このつくりだと観客の殆どはスペンス部分に目を奪われてしまい、そもそも「馬に蹴られて死んだ事件」が解かれるべき謎として認識さないままに「民兵の誰かが口封じに殺した」程度の解釈で軽く流してしまっていたハズです。
結果、ミステリの要でもある右京さんの謎解き場面がいらない子どころか、全体を眺める浮いてすらいるという非常にアンバランスな作劇になっていました。
公開前からの大きなトピックであった神戸君再登場も嬉しかったですが、新旧“相棒”共演と呼べるほどの絡みもなく、あっさり流されているのはかなり残念。『劇場版Ⅱ』の神戸-陣川ぐらいの絡みは欲しかったですね。特に、神戸くんは右京さんの新人スカウトに腰を抜かして驚いていた(大河内さん談)んですから。
しかし『X DAY』に続き、すっかり神戸君も体制側の人間というか。今後、作中に登場しても特命係の敵として立ち塞がる未来しか見えないですね……。
このつかず離れずのドライな関係も“神戸相棒”の大きな魅力ではありますが。
スピンオフも含めた劇場版『相棒』全5作を並べると、 劇Ⅱ>X DAY>米沢>劇Ⅲ>劇Ⅰという感じでしょうか。勿論、腐っても『相棒』なのでどれも「普通」以上には楽しめる内容ですよ。念のため。
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