2014.05/17 [Sat]
風森章羽『渦巻く回廊の鎮魂曲 霊媒探偵アーネスト』
![]() | 渦巻く回廊の鎮魂曲 霊媒探偵アーネスト (講談社ノベルス) 風森 章羽 雪広 うたこ 講談社 2014-05-08 売り上げランキング : 92194 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
★★★☆☆
噂を聞いたんです。このお店には、由緒正しい霊媒師の方がいらっしゃるとか
霊媒師・アーネストのもとに持ち込まれたのは、十六年前、画家・藤村透基の屋敷から消えた少女の捜査依頼。屋敷には渦巻き状の奇妙な回廊があり、最深部には「持ち主の運命を狂わせる」と噂される人形が飾られている。依頼を引き受けた友人のことが気にかかって、若き喫茶店店主の佐貴も藤村邸に同行することに。年に一度開かれる紫陽花観賞会に招かれた二人の前で、新たな殺人事件が発生してしまい――。
第49回メフィスト賞受賞作。
近本洋一『愛の徴 -天国の方角-』に続くメフィスト賞受賞作は、イギリスの名家の出で由緒正しき霊媒師の血を引く青年とその友人の若き喫茶店店主がいわくありげなお屋敷での殺人事件に挑む本格ミステリ。
座談会での「女性ウケしそう」との意見、いかにも腐女子の方々を狙っていそうな感のある耽美な表紙イラストと、発売前は不安要素でいっぱいでしたが、いざ蓋を開けてみればかなり直球の館ミステリ。著名な画家の残した不可思議なつくりの館と、年に一度の紫陽花鑑賞会に集められる関係者。十年以上もの昔に忽然と姿を消してしまった謎の少女。心を病んで引き籠る美しい長女、巨体で寡黙な陰気な男、胡散臭い訪問者……。加えて土砂崩れによって交通が遮断される“嵐の山荘”パターンに漏れなく館の見取り図付きなのだから、その本気度が窺い知れるというものです。装丁に騙されることなかれ。これぞまさしく講談社ノベルスといった作品です。
探偵役のアーネストは絶世の美女と見紛うほどの美青年であると同時に、霊媒としても高い資質を備えている設定ではあるものの、その能力が発揮されるのはあくまでも被害者自身と殺人に手を染めてしまった者への救済、残された人々に想いを伝える物語的な役割に限定されており、いわゆる特殊設定ミステリで見られる謎解きのパーツとしてのギミック的な用いられ方はされません。
そのためトリッキーで形式破壊な、ジャンルに一石を投じる作品をメフィスト賞に求める層には恐らく物足りないでしょう。とはいえ比較的なライトなノリで謎解きをあまり重視しない“キャラミス”が流行っている昨今、本格好きのツボを突いた道具立てと手堅く優等生な謎解きでその雰囲気を確かに感じられ、雨上がりの紫陽花のようにしっとりとした美しさを備えたミステリとして、講談社ノベルスらしさの中に時流を取り込んだより幅広い層に“本格”を訴え掛けられる作風を持った一冊であることは間違いないです。
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