2014.03/04 [Tue]
中町信『模倣の殺意』
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★★★☆☆
『七月七日午後七時の死』
一字画もおろそかにしない、堅苦しいまでの楷書文字。
まぎれもなく坂井正夫の筆跡である。
坂井は死を覚悟して、この原稿を書き綴ったのであろうか。
七月七日の午後七時、新進作家、坂井正夫が青酸カリによる服毒死を遂げた。遺書はなかったが、世を儚んでの自殺として処理された。坂井に編集雑務を頼んでいた医学書系の出版社に勤める中田秋子は、彼の部屋で偶然行きあわせた遠賀野律子の存在が気になり、独自に調査を始める。一方、ルポライターの津久見伸助は、同人誌仲間だった坂井の死を記事にするよう雑誌社から依頼され、調べを進める内に、坂井がようやくの思いで発表にこぎつけた受賞後第一作が、さる有名作家の短編の盗作である疑惑が持ち上がり、坂井と確執のあった編集者、柳沢邦夫を追及していく。
坂井正夫なる男が七月七日午後七時に命を落とした事件に際し、ふたりの関係者がそれぞれ別の方向からその死の謎と、容疑者と目されるこれまた異なるふたりの人物のアリバイ崩しに挑むミステリ。
本書は知人の父親というちょっと変わった筋からオススメ頂いた作品でして(ちなみに直接の面識はありません)、何でもその昔読んで大層驚かされたとのことで手に取りました。どうやら巷では「40年前の傑作が今、再びの大ブレイク!」との売り文句で版を重ねているらしく、いわゆる発掘本として再注目されているようです。
それ故に、ことミステリとして勝負した場合、どうしても時代性がネックになっているのは否めません。発表年代を考えれば仕方のないこととはいえ、アリバイ崩しはひと昔もふた昔も前に使い古されたようなネタであり、現代ミステリに馴れ親しんだ身にはいまさら感が漂うし、当時は革新的とされた中核を担うトリックも、もはやありふれすぎた手法です。
この構造でふたつの物語を最終的にひとつに収斂させる手腕は見事ではありますが、ミステリ史上の意義は別にして、既にある程度の想定問答集が出来つつある昨今、目次と構成に目を通しただけで条件反射的に使われているネタを看破できてしまうこの時代に、改めてその価値を問い、読者に直球で挑むだけのパワーを備えているかというと、残念ながらそうとは言えないでしょう。
何より、売り方が悪い。良い加減、オビの煽りや背表紙の紹介文で真相を仄めかす手法をやめろと言っているだろうに。いくら売れるからといっても、これがあるだけで読書の興が80パーセントは削がれます。
けれど一連のブームがあったからこその復刊と再評価であることを考えると、一概に無下にはできないものがあり、そう考えると良し悪しです。
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