2014.02/20 [Thu]
深水黎一郎『美人薄命』
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★★★★☆
孤独に暮らす老婆と出会った、大学生の総司。家族を失い、片方の目の視力を失い、貧しい生活を送る老婆は、将来を約束していた人と死に別れる前日のことを語り始める。残酷な運命によって引き裂かれた男との話には、総司の人生をも変える、ある秘密が隠されていた――。
これも昨年に読んだ作品ですがまだ感想を上げていなかったので。
『2014 本格ミステリ・ベスト10』第17位。メフィスト賞作家、深水黎一郎によるノンシリーズものミステリです。
「芸術探偵」シリーズに始まる美術作品と共に深水黎一郎が自身のテーマとして掲げている、一見するとミステリに思えない物語を反転させ、解決編になって初めてその裏に隠されていた「真意」が明らかになるタイプの作品です。
そのため本作では事件らしい事件は殆ど起きず、単位習得のために弁当配達のボランティアに勤しむ大学生と彼を迎える老婆との交流がメインとして描かれます。老婆の昔語りと予知能力に翻弄されつつも、次第に打ち解けていく主人公。
そんな平穏な日常がとある事故をきっかけに崩れ去り、そこからこれまで見えていた物語がいっきに反転してまったく別の構図を見せるところは、紛れもなく本格ミステリの様式といって良いでしょう。
反面、その構成故に探偵役の登場、謎解きの唐突さはどうしても拭えないものがあり、日常パートから解決編パートへの移行があまりスムーズに感じられません。また、物語の本筋や謎解きには直接掛かってこない設定やエピソードが散見されるのも綺麗でなく、すべてのピースをきっちり嵌め切れていない収まりの悪さが残ります。
もしかすると老婆の想いとの対比だったのかもしれませんが、それらが上手く絡んでいないので“余剰”に見えてしまうんですね。
とはいえ膨大な量の伏線と読者を巧みに騙すテクニック、さらには真相の意外性まで兼ね備え、読み応えある良質なミステリに仕上がっているのは確か。暗号解読も面白く、満足度は大変高いです。
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