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300冊の積読本もなんのその、本や映画の感想などをつらつらと述べてみたり。

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周木律『五覚堂の殺人 ~Burning Ship~』

五覚堂の殺人 ~Burning Ship~ (講談社ノベルス)五覚堂の殺人 ~Burning Ship~ (講談社ノベルス)
周木 律

講談社 2014-02-06
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★★★☆☆
はい。その事件の一部始終を見せるため、十和田さん、私はあなたをここに呼んだのです
放浪の数学者十和田只人は、超越者善知鳥神に導かれ、雪の残る東北山中の館――“五覚堂”へと足を運んだ。そこで神に見せられた記録媒体には、ごく最近、五覚堂で起きたと思われる、哲学者を父に持つ一族の遺産相談に纏わる、連続密室殺人事件の一部始終が! だが、五覚堂は事件の痕跡が拭い去られている……。消失した事件の解とは!?


「堂」シリーズ 第3作。
 数学蘊蓄と新本格を掛け合わせたメフィスト賞受賞作『眼球堂の殺人』から連なる館ミステリの最新刊です。
 今巻のテーマは自己相似形(フラクタル)。噛み砕いて表現すれば、図像の一部が全体の相似形となっていて、それが延々と続いていくように見えるモノのことです。副題にある“バーニング・シップ”というのも、このフラクタルの有名な一例を指しており、本作の舞台である五覚堂もその例に漏れず、五角形が複数繋がった自己相似形の建物となっています。

 十和田が善知鳥神によって見せられた映像の中で発生する小礼拝堂の殺人と大礼拝堂の殺人――ふたつの密室殺人の真相と、被害者一行と共に行方を眩ました百合子の所在がミステリ部分の核といって良いでしょう。
 正直なところ、テーマがテーマだけに作者がいかにして読者を振り回そうと目論んでいるのか、どう物語を転がして何をミスリードにしたいのかが大方見当ついてしまうのが難点で、展開自体にそれほどの驚きはありません。また、その持っていき方も某メフィスト賞受賞作を強く想起させるものがあり、先行作品への既視感の払拭は引き続きミステリを書く上での課題となりそうです。
 第一の殺人におけるヒントの出し方の露骨さ、仕掛けの単純さも初級者レベルでミステリ馴れした読者には喰い足りない部分がありました。反面、予めどこかが「回転する」と明示された上で披露される第二の密室トリックは、その突飛さと力業に思わずにやりとさせられます。こういうミステリは嫌いじゃないです。

 とはいえ些か厳しいことを述べると、今回は前作ほど殺人劇の真相、トリックと数学要素とが絡んでおらず、フラクタルが“見立て”として機能していないのが気になります。今回の場合であれば小礼拝堂と大礼拝堂、両者の密室がフラクタルな関係となる解決編を当然期待するにも関わらず、そうした結論には至らない。ぶっちゃけ数学蘊蓄がなくても成立してしまうどころか、先にも触れたように、一部ではテーマの存在がミステリ的なサプライズを削いでしまうという、本末顛倒な事態すら招いています。
 この辺りの構造をどう改善し、如何にして事件の中に数学を取り込んでいくのかも腕の見せどころとなるハズです。
――と、まあ色々と注文を付けはしたものの、前2作に比べて段々と面白さを感じる部分が出てきたのも確かです。作者のTwitterによると座談会で称賛された『煙突館の実験的殺人』はシリーズの作風に合わないから、とお蔵入りにさせているようですが、むしろいまこそその“爆発力”に任せて風穴を空けるべきときなのではないでしょうか。

 それにしてもシリーズ3作目にして、早くもクライマックスな雰囲気ですね。望月守宮の「無貌伝」といい、何もそう焦って風呂敷を畳もうとしなくとも、長いスパンで続けていけば良いと思うんですけどねぇ。


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はろーすみす

Author:はろーすみす
シリーズものも平気で数年寝かせる積読家。本格ミステリとスター・ウォーズ小説を中心に読み漁り、新刊・話題作はあまり追っていません。

好きなミステリ作家は古野まほろ、はやみねかおる、西尾維新、霧舎巧。
ジャンル外では築山桂と小川一水。
講談社ノベルスをこよなく愛す特ヲタ。

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1.トリプルプレイ助悪郎(2007年刊)   2.名探偵に薔薇を(1998年刊)             3.化物語(2006年刊)          4.時砂の王(2007年刊)                  5.天帝の愛でたまう孤島(2007年)

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