2013.12/25 [Wed]
岡田秀文『伊藤博文邸の怪事件』
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★★★☆☆
大日本帝国憲法発布前夜、明治17年(1884年)の高輪、伊藤博文邸。書生としてその洋館に住み込むことになった杉山潤之助の手記を、偶然古書店で手に入れた小説家の私。そこには伊藤博文邸で起きた怪事件の様子が、ミステリー小説さながらに描かれていた。密室で行われた殺人、庭園に残った不審な足跡、邸のまわりをかぎまわる怪しい新聞屋、伊藤公の書斎から聞こえる物音、そして第二の死体……。相部屋の書生、月輪龍太郎と推理合戦を繰り返し、伊藤公の娘・生子お嬢様とその教育係・津田うめにふりまわされながら潤之助が見た事件の真相とは――。
伊藤博文による日本初となる独自の憲法の制定を背景に描かれる時代ミステリ。小説家の「私」が語り部・杉山潤之助の手記を小説に仕立てたという体で書かれたミステリ小説です。
作者の岡田秀文はもともとミステリ畑の人間ではなく、時代小説が専門の作家さんだそうで。時代作家による本格ミステリといえば、昨年度『本ミス』で14位を獲得した幡大介『猫間地獄のわらべ歌』が記憶に新しいところですが、あちらがメタ的に本格を弄り倒した邪道だとすれば、こちらは正真正銘の正道作品。
日に日に近代化が進む明治期の日本と、その流れに乗って未来を見据える者と乗れずに取り残される者、実際に歴史にその名を残す偉人たちが入り乱れ、一連の事件を通して時代のうねりそのものを克明に活写する様は、まさしく時代小説作家の面目躍如といえるでしょう。
密室殺人のトリック自体はメインを張るにはやや弱く、どこかで見たようなネタではあるものの、作品全体を貫くギミックの大胆さと丁寧な伏線、ミスリードを誘うために考え抜かれた構成は、決して本業のミステリ作家に引けを取りません。
かつてそこにいたとある書生の日記を元にした小説との設定も、時代の変遷に立ち会ったひとりの人間の人生を覗いているかのようで、単なるミステリとしての要素以上に意味のあるものとなっています。
惜しむらくは密室トリックもそうですが、あらすじに書かれているほど生子様やうめさんに振り回されている感が少ないこと。
いざ読み終えてみると、オビの煽りや文句からはややズレた印象を受けるかもしれません。
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