2009.10/09 [Fri]
海堂尊『ナイチンゲールの沈黙(下)』
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★★★☆☆
由紀さんに最後の海を見せてあげられなくて、何が医療だよ。
どこがプロなんだよ
手術前で精神的に不安定な子供たちのメンタルサポートを、不定愁訴外来担当の田口公平が行なうことになった。時同じくして、小児科病棟の問題児・瑞人の父親が殺され、警察庁から出向中の加納達也警視正が病院内で捜査を開始する。緊急入院してきた伝説の歌姫・水落冴子と、厚生労働省の変人役人・白鳥圭輔も加わり、物語は事件解決に向け動き出す。
田口・白鳥シリーズ 第2作の下巻。
あえてカテゴライズするのなら倒叙ミステリになるのだろうけど、既にミステリという枠組みから逸脱している本作に怖いものはなく、真相の明かし方なんかも結構ファンタジック。犯人突き詰めに取り立てて決定打になる証拠を用意するわけでもなく、ほとんど自白に近い状態で真相は明らかにされます。と同時に、これがこの『ナイチンゲールの沈黙』が叩かれる最大の要因でもあります。
しかしながら、これこそ正に“ナイチンゲールらしさ”であり、この作品だからこそ成立させられる結び方。下手にミステリ要素に比重を置かれて残念な作品に仕上がるよりも全然良いと思います。大歓迎ですよ。
(以下ネタバレ)
そうはいっても海堂さん、伏線の張り方なんかはなかなか秀逸で。まさか上巻冒頭の“狸囃子”のシーンが歌の視覚化現象の伏線になっていたとは……。
単なる文章表現のように見せておいて、実際は言葉のとおりだったという展開は高里椎奈の“フェンネル大陸 偽王伝”1作目『孤狼と月』なんかでも使われていた手法(テオの件ね)で、小説という媒体だからこそできる一種の叙述トリック。こういうのを見ると、上手いなぁと思うわけですよ。
ただ今回の犯人は相当タチが悪い。文中でも指摘されているように、大事にならなくて済んだ事件をわざわざ大事にしてしまったり、アリバイ工作のために子供に解剖を頼むとか、やりすぎな感は否めません。表面では心配そうにしておきながら実際にやっていることはかなり冷徹。『相棒 -劇場版-』の犯人と同じ匂いを感じますね。
それでいて結果的には共犯者と後の人生を共に歩む(?)覚悟とか見せてくるわけですが、正直ふざけんなって感じですよ。急に呼び方まで変えちゃって。だからといってそういう心境の変化をみせる契機となった事象として思いあたるのが、要は犯行がバレたという自己中心的な理由しか挙げられないわけです。間違ってもそこに感動の入る余地なんて微塵もない。
著者がどういった意図で描いたかはわかりませんが、作品全体を読んで、文章の外にある感情を推察したばあい、少なくとも自分は数あるミステリの中でも最悪の部類に入る犯人だと思います。もう本当に同情の余地なしなレベル。
少子の影響下にあったときの『木剋土』の犯人並に非道い奴です(両方読んだ人にはわかるハズ)
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