2013.12/10 [Tue]
法月綸太郎『ノックス・マシン』
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★★★☆☆
上海大学のユアンは国家科学技術局からの呼び出しを受ける。彼の論文の内容について確認したいというのだ。その論文のテーマとは、イギリスの作家ロナルド・ノックスが発表した探偵小説のルール、「ノックスの十戒」だった。科学技術局に出頭したユアンは、想像を絶する任務を投げかけられる……。
黄金期の古典ミステリを題材にしたSF小説。『このミステリーがすごい!2014年版』第1位、『2014 本格ミステリ・ベスト10』第4位と今年度のミステリランキングで軒並み高評価を得た一作です。
収録作は全部で4篇。ロナルド・ノックスによるノックスの十戒やアガサ・クリスティの失踪事件、クリスティ史上最駄作と称される『ビッグ4』と最高傑作と誉れ高い『そして誰もいなくなった』、エラリー・クイーンの「国名シリーズ」といったミステリ史を語る上では避けては通れないトピックにまつわる不可解で不合理な要素の数々を、SFのガジェットを用いて理屈付けましょう、という短編集です。
ノックスの十戒にはなぜ「中国人を登場させてはならない」なんて奇妙な禁則事項が科せられているのか、どうしてクイーンの『シャム双生児の秘密』には「読者への挑戦」がないのか。SF小説の体を採ってはいるものの、そこで展開されるのは本格ミステリジャンル全体を俯瞰しての評論であり、与えられた疑問点からトンデモ気味な解答に着地させるつくりは歴史ミステリのそれに極めて近似した手法だったりします。
収録作の中では異色の「バベルの牢獄」も、その無駄すぎる労力と隠されていた目論見のくだらなさ(勿論、褒め言葉です)はバカミスそのもので、そうした意味でも本作は立派な本格ミステリといえるでしょう。
惜しむらくは、表題作「ノックス・マシン」や「論理蒸発――ノックス・マシン2」は確かにミステリ論を組み込んだ小説としての面白さがあるのですが、肝心のネタ自体はそれほど斬新なものではなく、ある程度SF馴れしている読者にとっては割合ありきたりな展開に感じてしまうことですね。
何年か前に第1回島田荘司推理小説賞を受賞した寵物先生『虚擬街頭漂流記』と同様に、あくまでもミステリジャンルだからこそ評価された作品であって、ことSF分野から見た場合はそこまででもないかなぁ、と。
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