2013.11/28 [Thu]
長沢樹『上石神井さよならレボリューション』
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★★★★☆
野鳥とフェティシズムと「消失の謎」を捕獲せよ! 成績不振の写真部員設楽洋輔は、眉目秀麗で天才で変態の岡江和馬の勉強指導と引換えに、鳥好きの美少女・愛香の盗撮を請け負う。そんな中、人が不可解に消える事件に巻きこまれ……。
相沢沙呼と並んでいまや学園ミステリ業界の二大フェチ作家としての地位を築きつつある長沢樹。キャッチコピーにフェティシズムと掲げるだけあって、眉目秀麗でフェチ写真に命を懸ける探偵役と勉強を見て貰う条件で彼のために盗撮行為に勤しむ主人公、三度の飯より鳥さんが好きな天然アイドル系美少女、恥ずかしい姿を他人に観られることにこの上ない快感を覚えるメガネっ娘――と、主要登場人物が総じて変態という怖ろしい作品です。
ここまで開き直ってオープンにエロを追求する姿勢にはまったく敬服します。まあ、本作の目指しているフェティシズムは微妙に自分の嗜好とはズレているのですが……それはともかく措いといて。
デビュー作から続く「樋口真由“消失”シリーズ」ががっつりとした長編ミステリであるのに対し、こちらは全5篇から成る連作短編集。とはいえ、ライトな読み口と突飛なキャラクターに惑わされるなかれ。日常の謎を題材にしつつも、どの章にもしっかり図版が入る凝りようです。
圧倒的に驚かされる真相、突出した点が用意されているわけではないけれど、第一章から第四章までに登場したトリックや要素の数々を最終章の伏線として再利用し下敷きにする構成は、各章に散りばめられた謎を強引にでも繋げて一気に絵解きする東京創元社方式とはまた違った連作ミステリの味があります。
しかしそれ以上に良かったのが本書の青春小説としての部分でした。通常、こうしたキャラクターものの作品の場合、主人公とヒロインがなあなあで恋愛関係に陥っていくものですが、本作ではそうはなりません。そればかりか、語り部の設楽はメインヒロインである愛香とはまったく別の女の子を好きになります。この過程が非常に丹念に描かれており、その結末も含め、紋切り型の単なるキャラ萌え以上の、ちゃんとした青春小説になっているんですね。
これを読むと作者がライトノベルレーベルでデビューできなかったのにも頷けると同時に、よくぞ一般ミステリの枠に応募してくれた!と改めて思います。いやー、好きですねぇ(久しぶりにスキゾーさん風に)
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