2013.11/21 [Thu]
嶋戸悠祐『セカンドタウン』
![]() | セカンドタウン (講談社ノベルス) 嶋戸 悠祐 講談社 2013-08-07 売り上げランキング : 582842 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
★★★☆☆
お前を含め、この世界そのものが〈ソニー・ビーン〉だ。洞窟の外は〈外界〉だ
高い塀に囲まれた町、セカンドタウン。その郊外にある井戸から、高校教師の中山が救出された。井戸の底での恐怖体験を教え子の戸丸に語った彼は、病院の屋上から飛び降り命を絶つ。中山が遭遇したという異形の男。町の治安を管理する『自治体』。町の中心にある、さらなる塀で囲まれた『塀の中』と、飛び回る羽虫――。戸丸は事件をきっかけに町に疑念を抱き始めるが、語り合った友人、祝詞は一編の物語を遺して姿を消す。物語に秘めたセカンドタウンの真実とは――!?
周囲から隔絶された街で起きたとある殺人事件をめぐるSFミステリ。選ばれし者だけが幸福に暮らす箱庭世界が設定される典型的なディストピアものの類に漏れず、ひょんなことから事件に関わることになった主人公が、やがてセカイの核心に触れ、真実を知ることになるという王道のストーリーです。
作品の大部分は作中作で占められ、初っ端からかなりグロとスカの度合いが高いため、その手の要素が苦手な人にはあまりお薦めできません。終盤で明らかになるセカイの在り様もなかなかにエグいものがあり、後味の悪さも相当ながら、読後感自体は決して悪くなかったのは救いでしょうか。
いわゆる箱庭系の作品では、彼らの生きるセカイの外がどうなっているのかがひとつのキモとなってきます。本作においてもそれは例外ではなく、作中作を読み進めるうちに明らかになっていく歪な真実は想像の範疇ではあるものの、その外枠に敷かれた“理由”の方には結構なインパクトがありました。
ただし作者が福ミス出身だからなのか、変に探偵小説のフォーマットに当て嵌めようとしているきらいがところどころに散見され、名探偵や推理といったワードが作品の世界観から微妙に浮いて見えるのがネックです。
小説としては面白く、心に怪物を飼うソニーの生涯を追った作中作も読ませるだけに、いっそのことミステリ色を一切排してディストピアSFに徹した方が、よりすっきりしたように感じます。
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