2013.10/27 [Sun]
古野まほろ『天帝のやどりなれ華館』
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★★★☆☆
東京駅に直結する「東京鉄道ホテル」に宿泊することとなった、勁草館高校3年・吹奏楽部所属の修野まり、峰葉実香、柏木照穂。高校生なのにブラックカードを持つ超お金持ちの修野まりのおかげで、宿泊代が特段高い、ホテルに6部屋だけ存在するメゾネットルームに宿泊した彼らは、別のメゾネットルームの宿泊者がすべての孔から血が吹き出して死亡する場面に遭遇。外へ助けを求めようとした矢先、メゾネットルームは政府によって隔離されてしまう。脱出不能の華館に蔓延する致死ウイルスと忍び寄る殺人鬼に、刻々と近づくタイムリミット――絶対絶命の状況に、3人の高校生が挑む。
「天帝」シリーズ 第6作。
講談社ノベルスから幻冬舎に版を移してから2作目となる「天帝」シリーズの最新作は、かねてより予告されていた『天帝のやどりなれ華館』。合間に『墓姫』を挟んだこともあって、『華館』がどうなるのかと気が気でなりませんでしたが、こうして無事に刊行されました。長かった、本当に長かった。
本作はシリーズ第6作にして古野まほろが不在の番外編であり、時系列的にはまほろが満州に逃れていた頃――『果実』と『御矢』の間にあたる時期のエピソードです。そのため、語り部は柏木と修野嬢、峰葉さんの3人が交代で担当し、ルビも装飾も控え目でびっくりするほど読みやすい。やはり、「天帝」シリーズの過剰なまでの衒学趣味はまほろの一人称だったからこそ、という事実を改めて認識させられました。
物語としてもがっつりウイルス・パニックが展開されるのですが、そうした時期設定の都合上、主要キャラの3人が生き残るのは確実であり、サスペンスとしての緊迫感をやや削いでしまっている感も否めません。
ウイルス汚染下で終末的状況にある中で起こる連続殺人事件という特異なシチュエーションにありながら、要の謎解きは堅実堅調。驚くほど手堅く、地に足の着いた論理で真相を詳らかにしていく一方で、梓崎優の「叫び」で見られたようなウイルスが蔓延する最中だからこそ実現する異質の論理や、発想のアクロバティックさに欠けるのも勿体なかったです。犯人の動機や犯行手段も至極真っ当なものであり、極論、殺人事件だけ抜き取ってみれば、アウトブレイクものである必要性があまり感じられないというのが本当のところ。
「複数人による推理合戦を行った場合、最後に披露される謎解きが正解である」という究極的な問題を回避するために導入されたアイディアも、あまり上手く機能していたとは言い難く、ミステリとしてのレベルが低いわけではないけれど、総じて設定負けてしまった印象が強いです。
ちなみに、本作で描かれた東京駅テロは『群衆リドル』の元凶となった事件そのものであり、「探偵小説」シリーズがなぜコモの独壇場になったのかがフォローされるばかりか、事件関係者には『セーラー服と黙示録』のホワイダニット娘こと葉月茉莉衣の母親が、柏木の読んでいる本が『復活:ポロネーズ 第五十六番』だったりするなど、各シリーズ作品とのリンクも一際強く、現時点におけるまほろワールドの最重要作だったりします。まほろファンであれば、必ずや押さえておきたい一作でしょう。
なんだかんだで残る祭具は「黄昏のギャラルホルン」ただひとつ。どうやら衛星軌道上に存在するらしく、「天帝」シリーズ次作は宇宙が舞台の真空密室とか普通にやってきそうで怖いです。
その前に「セーラー服と黙示録」シリーズの新作長編、外田警部主役のスピンオフ、栄子さんをフィーチャーした短編集等、年内は出版ラッシュなので、こちらも要チェックですね。
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