2013.10/13 [Sun]
菅原和也『CUT』
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★★★★☆
身近な人を失った人間が悲しむのは『人間関係』という自分自身の所有物を失ったからですよ。
本質的には、お気に入りのアクセサリーを失くして憂鬱になるのと同じです
キャバクラのボーイ・透は、キャバ嬢・エコの送迎中に、路上で首なし死体に遭遇してしまう。動揺する透に、エコは「死体の首を切断する主な理由」を淡々と講義し始めるのだった。透は過去に弟を亡くして以来、消極的な人生を送っていたが、エキセントリックなエコに引っ張られるように、事件の捜査に巻き込まれていく――。
探偵事務所でアルバイトする派遣キャバ嬢と、客引きの仕事をしているボーイが連続首切り殺人事件の謎を追うミステリです。
水商売に関わる若者ふたりを探偵とワトスン役に据え、基本的には地に足の着いた世界観を描いている反面、首無し死体を前にして好奇心を隠そうとせず、ころころと無邪気に表情を変えるわりに乾き切ったように人の心を解さないエコの現実離れしたキャラクター設定はこの小説の魅力であり、ウィークポイントでもあります。少なからずリアリティを重視した物語において、こうした非実在度の高い登場人物を物語の中に放り込むことは恐らく好悪分かれるところで、その点が許容できるかどうかで、本作の評価もまた変わってくるでしょう。
私としては充分に許容範囲内なのですが、人によってはチープと感じてしまう可能性があります。
本作で焦点とされるのは“重力密室”と“首切りの論理”の二点。迂闊に足を踏み入れようものなら、途端に床が抜けてしまう状態にあった部屋にて、犯人はどうやって被害者の命を奪ったのか。死体の運搬のためでもなければ、身元の隠蔽が目的でもなく、かといって憎しみによる損壊にしては不自然なまでに残りの部分が綺麗すぎ、切り落とされた首は現場に残されている――。何のために首を落したのか不可解極まる状況の中、止まることなく発見される首無し死体。
どん詰まりを見せるHowとWhyに対して用意される解答は、両者共に一定以上のレベルで意外性を保ちつつも頷けるものとなっていて、密室もの、首切りものとしてはそれだけでも及第点を与えられる出来なのですが、本作ではそこからさらにひっくり返し、第一の説明よりもさらに説得力を伴った真相へと着地させるから驚きです。
これぞ盲点。幸せの青い鳥はそこにいた~的な、明瞭且つ納得のその理由には、思わず膝を打ちました。
惜しかったのは、エコたちの捜査活動の合間合間に犯人の心情が挟まれる半倒叙形式をとっている都合上、どうしても容疑者の目星がつきやすく、それによってフーダニットがインパクト薄になってしまっていることですね。確かにやりたいことはわかるのだけれど、そこはぐっと堪えて、いっそフィニッシングストローク的に突き付けた方が、より効果を発揮したハズです。
とはいえ、だからといって犯行方法と動機部分が容易にクリアされるわけでもなく、むしろ犯人当てが簡単だからこそ、最終的な真相提示がより引き立っているといえるかもしれません。
あまり話題になっていないのでどのくらいの人が読んでいるかはわかりませんが、『本ミス』20位圏内に入ってきても何らおかしくない。今年度の予期せぬ伏兵です。
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