2013.10/04 [Fri]
北山猛邦『人外境ロマンス』
![]() | 人外境ロマンス (単行本) 北山 猛邦 角川書店 2013-06-29 売り上げランキング : 355699 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
★★★☆☆
何もかも理想通りで、身悶えするほどキュートな恋人。でも、彼の仕事ってなんだろう???(「かわいい狙撃手」)冬のある日、その密室から、彼女はどうやって抜け出したのか。(「つめたい転校生」)大切な人を亡くした弓子が、山奥の旅館で出会ったのは―。(「うるさい双子」)さみしい少年時代に出会ったたったひとりの友達は、人を殺す妖怪だった。(「いとしいくねくね」)名探偵コンビは、冷徹なエリート刑事と…ピンクの薔薇!?(「はかない薔薇」)――人間とあやかしたちの恋は謎的&詩的! 不思議でせつない連作ミステリ。
「物理の北山」の今年3冊目の新作小説は、人間と人外との恋模様を切り取った寓話ミステリです。人間社会に紛れた人ならざる存在、悩みを抱える人間がふと迷い込んだ境界線の向こう側――。異なるふたつの種が出逢った瞬間に生まれる恋の物語をリリカルに綴った連作集で、それぞれの短編は「人と人外との恋」というテーマだけ共通した独立したものとなっています。
生きる世界の違う両者の恋は、ときに素敵で甘々で、ときに切なく苦しい結末を迎える。登場する人外も、幻想の存在から都市伝説、日本古来の妖怪まで幅広く、テーマに縛られないバラエティに富んだストーリーが愉しめます。
言うまでもなくミステリとしての趣向も凝らされており、縦横に張られた伏線を活かして人外の正体を探る話もあれば、ちょっと変化球な密室ものに挑んだ作品等、こちらも振り幅が広いです。
とはいえ、最終章の「ちいさいピアニスト」では読者のミスリードを誘うためにかなり強引なこじつけを行っている感もあり、あまりミステリ色の強くない作品も収録されているなど、出来不出来はまちまちといったところ。本作の場合、ミステリか否かにはあまり拘らず、素直に物語を楽しむのが吉でしょう。
中でも印象的だったのは、姿を目にした人間を殺してしまう“くねくね”と出逢った少年のその後を描いた「いとしいくねくね」。あまりにもビターでやるせない結末に、思わず他に方法はなかったのかと切に訴え掛けたくなるほどでした。
伏線の嵌まり具合では第一章の「かわいい狙撃手」も推したいですね。
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