2013.09/26 [Thu]
青柳碧人『国語、数学、理科、誘拐』
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★★★☆☆
テストの点数、そんなに大事なのか。俺たちにとって。それを、聞いてみたかったんだ
ある日、塾の公式アドレスに「おたくの塾生、山下愛子を誘拐した」との脅迫メールが届いた。犯人の要求する身代金額は、なんと五千円。しかもすべて一円玉で用意し、千円ずつにわけて五人の学生講師がファミレスに持参せよ、という驚きの内容だった。ファミレスに集まった五人は、犯人によって一人ずつ順番に呼び出されるのだが、彼らを待っていたのは、それぞれが得意とする科目の難問、奇問。「こんな悪ふざけをするのは、あいつしかいない!」――五人は、塾に恨みをもつ元講師を疑うのだが、誘拐事件は、やがて意外な展開を見せる……。
今年3冊目となる青柳碧人の最新作は、小中学生を対象にした学習塾を舞台にした誘拐ミステリ。小説を読んでいく中で簡単なお勉強にもなり、なおかつミステリでもあるという方式は「浜村渚」と同様で、作中の端々にクイズのように設問が挟まれる構成も、元クイズ研究会の著者らしい趣向の凝らし方です。
また、著者自身の本業が社会科の塾講師であり、作品を通して塾に通う意義とは何か、勉強する意味とは何なのかを描き、その問い掛けを主題に物語が展開されている点も鑑みると、青柳碧人という作家の主義主張、考え方や生きてきた道が最も反映されている作品といえるかもしれません。
あらすじからもわかるように、本作で発生する誘拐事件はまるでゲームのようであり、犯罪としての緊迫感は皆無です。これが実際の事件だとしたら間違っても成立するようなものでは決してなく、すぐにボロが出て犯人がバレてしまうのが関の山でしょう。
けれど、それらの計画の拙さ、突っ込みどころがこの物語の本質であり、また要でもあるのです。謎解きミステリとしては多少の肩すかし感はあるものの、杜撰でツギハギだらけの犯罪それ自体が、作中において確かな意味を持っているといった点を踏まえると、安易に批判されるべきものでもないと思います。
とはいえ、そこはメフィスト賞チルドレン。共犯者の炙り出しについてはきちんと伏線が張られた上で推理が行われ、小粒ながらしっかり本格スピリッツを感じさせてくれました。
主要人物となる塾講師たちの人数がやたらと多く、キャラクターが確立される前の序盤から目まぐるしいほどに視点変更が頻発されるのはややネックです。
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