2013.09/21 [Sat]
森川智喜『一つ屋根の下の探偵たち』
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★★★★☆
とにかく、さっきも少し言ったが、犯罪というのは概して短絡的な発想にもとづいた行動だ。
キリギリス的な行動だ。許されないぐらいキリギリス的だということだね。
“なまけものの探偵”と“働きものの探偵”とシェアハウスを始めた新人エッセイスト・浅間修は、苦しい経済状況を打開するために、同居人を主人公にした小説を書こうとする。そんなとき、新聞記事に“アリとキリギリス事件”を発見。密室で男が殺され、その下にはアリの巣のような穴が開いていて……。
今年、精力的に活動している森川さんによる新シリーズ。勤勉で実直なアリのような探偵・町井唯人と天才でサボり屋のキリギリスのような探偵・天火隷介が、ルポタージュのモデル(という名の取材料)獲得を目指し、不可解な密室事件の謎解き勝負に挑む本格ミステリです。
一般に本格ミステリにおける密室というと、針と糸で解決できるようなものから衆人環視の開けた密室、突き抜けるところまで突き抜けると核汚染やパンデミックなんてものまで登場し、如何にして強固な不可能状況を作り出すかに注力されています。しかしながら本作で描かれる「アリとキリギリス事件」では、現場の床には穴が空き、内側から掛けられた鍵のナンバーは被害者が知っているという、およそ密室とは言えない不完全な状況で、それでもなお餓死体が見つかるという珍妙なシチュエーションを合理的に説明付けることが課題となってきます。
被害者自身、出ようと思えば出られたハズの状況で、何故死者が出るに至ったのか。普通であればミソの付きそうな「穴のある密室」を敢えて演出することで、問題点そのものを謎解きの主題に昇華してしまう逆説的なアプローチには舌を巻くと同時に、実際には発生しなかった「可能性の犯罪」までも込みで展開される推理過程、絵面として単純明快だからこそよりいっそう衝撃度が際立つトリック等、単に野心的なだけでは終わらせない、最後まで魅せてくれるだけの実力を持った作品でした。
中途参戦のマイも含めたキャラクター性も良く、読みものとしても愉しかった。デビュー作『キャットフード』の頃と比較すると、著者の成長が著しいです。
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