2013.08/23 [Fri]
我孫子武丸『狼と兎のゲーム』
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★★★☆☆
2年前に母が失踪して以来、小学5年生の心澄望と弟の甲斐亜は父・茂雄の暴行を受け続けていた。夏休みのある日、庭で穴を掘る茂雄の傍らに甲斐亜の死体が。目撃した心澄望とクラスメートの智樹を、茂雄が追う! 死に物狂いで逃げる彼らを襲う数々のアクシデント!! 茂雄が警察官であるゆえ、警察も頼れない二人の運命は――。
日常に自分の息子たちに暴力を振るっていた男が、いままさに友人の弟の死体を埋めようとしている現場に居合わせてしまった智樹。DV男を父に持つ友達に巻き込まれ、意図せず決死の逃走劇を繰り広げることになった少年が主役のサスペンス小説です。
「狼と兎のゲーム」とはいわゆる「けいどろ」のことで、ハンターである茂雄と、追われる智樹と心澄望の構図によりマッチした形で表現されたフレーズとなっており、互いに相手を追いつ追われつ、茂雄の魔手をギリギリで躱しながら東京を目指す智樹たちの必死の逃走が、それぞれ視点を変えながら描かれます。
作者自身、もともとはミステリーランド用に考えていたアイディアだったが、内容が内容なので別の作品に差し替えたと語っているとおり、子供が主人公でジュブナイルっぽさを漂わせつつも、家庭内暴力やレイプ、あまりにもブラックな結末など、容赦の微塵も感じさせない展開はさもありなん。
ま、このレベルの鬱小説を普通に子供向けとして出してしまうのが麻耶雄崇であり、ミステリーランドというレーベルだったりするのですが、あまり子供には読ませたくない代物であることは確かですね。
狭義の意味での本格ではないものの、サプライズの仕込みにも抜かりはなく、正しい情報を把握している犯人が状況を巧みに誘導し、自らの有利な方向にことを運んでいく様は、ミステリ小説における犯人の全能性を象徴しているようで興味深い。
重苦しくやりきれないラストは決して良い読後感と言えないけれど、そんな中にも救いはあったと信じたいです。
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