2013.08/16 [Fri]
青柳碧人『浜村渚の計算ノート 4さつめ 方程式は歌声に乗って』
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★★★☆☆
つまり確率ってのは、
まだ見ぬ可能性を数と論理を使って覗いてやろうっていう、どこまでも未来を見据えた数字なんです。
……「確率」の問題を愛する人が、未来を諦めちゃうのは、おかしいですよ
テロ組織「黒い三角定規」が、いよいよ浜村渚に直接対決を挑んできた。渚と武藤龍之介をミュージカル劇場に招き寄せ、一次方程式を解けという。だが、その問題は普通のやり方では解けないうえに、「黒い三角定規」の驚くべき策略を示唆するヒントも仕込まれていた!
「浜村渚の計算ノート」第5作。
シリーズ初の長編だった『3と1/2さつめ』を挿み、久々の連作短編方式に戻った今巻。渚の好きな男の子の名前が明かされたり、武藤さんの古い知人が敵に回ったり、さらにはドクター・ピタゴラスと黒い三角定規に予想だにしない展開が待っていたり、と物語が大きく動いた感もあり、そろそろシリーズの終わりがちらつき始めてきました。本シリーズは短編のアイディアこそ真骨頂だと思っているので、あまりそちらの方面に力を入れなくても良い気がしなくもないのですが……。
題材の方は、フェルマーの最終定理や三角関数を扱ったここ最近の巻に比べるとやや難度を下げており、それぞれ確率、展開図、平方根、一次方程式をテーマに今回も実験作1本を含む4本立て。中でも、「オペラ座の未知数」は小説でミュージカルをやってみせるという、青柳節炸裂の悪ノリ加減は良くも悪くも人を選びます。
ミステリ面では予め張られた伏線から意外な形で相手を出し抜く攻略系ミステリの「折る女たち」、暗号ものの「事情だらけの総合病院」の2タイトルが本格色強めですが、前者は文章のみの説明ではいまいちイメージが沸き難く、逆転の一手が読者に対して思ったほどの効果を上げていないのがネックです。後者も暗号の必然性に欠ける部分があり、既刊の4作に比べると、ミステリとしてのキレが鈍いというのが本音。
数学とミステリを組み合わせた唯一無二の方向性を持った作品だけに、次作で盛り返してくれることに期待しましょう。
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