2013.07/25 [Thu]
霞流一『落日のコンドル』
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★★★☆☆
プロの暗殺者〈影ジェント〉瀬見塚は豪華客船のオーナーを暗殺するため洋上の船に潜入した。船員はみな薬物で眠らせたはずだったが、なぜか暗殺チームの一人が殺される。しかも船は自動操縦で数時間後に座礁の危機。暗殺任務に加え、どこからともなく飛来したコンドル三兄弟の襲撃をかわし、仲間殺しの犯人を見つけなければならない。敵味方入り乱れて推理が交錯し、本格パズル・ロワイヤルの幕が開く!
「〈影ジェント〉シリーズ」第2作。
前作の主人公・瀬見塚眠率いる〈影ジェント〉チームと、彼らの任務を妨害しようと立ちはだかるコンドル三兄弟との熾烈な闘いを描いた「sin本格」ミステリ。現実離れした暗器や異形の暗殺者が跋扈する世界観において、舞台に本格の王道でもある豪華客船を選んでいるあたりに、確信犯的なチャレンジ精神を感じます。
そうはいっても、あらすじや設定のぶっ飛び具合とは真逆に、謎解き部分はかなり堅実。ガチガチのロジックによる消去法推理と大胆すぎるトリックが同居した、繊細さと豪快さを併せ持った作品に仕上がっており、前作同様に意外なくらい正道正統な本格ミステリでした。
本作でハウダニットの議題となるのは、コンドル三兄弟による四次元殺法のカラクリとお馴染み「足跡のない殺人」の二点。一見して無関係に思えるふたつの謎が不可分であることも勿論のこと、それ以上に驚かされるのは、〈影ジェント〉や〈影ジェンシー〉、〈人血遺導〉といった独自の設定を敷くことによって、作中人物にとっては明瞭な事実にも関わらず、各キャラクターが推理合戦をする中で核心まで言及してくるのを華麗に避けてみせている点でしょう。これらの重要な要素を、ごくごく自然に物語内に織り込んでいる抜かりの無さは感嘆ものです。
ページを開いて最初に目に入る“影業権独占”なる文字が、読了後にお遊び以上の意味を持っていることに気付かされたりと、本という媒体を使って目いっぱい遊んでくれています。
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