2013.07/05 [Fri]
松本寛大『妖精の墓標』
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★★★☆☆
山間の町、古くから鷺沼で製材業を営む新羽家の先代、新羽堂市が、療養していた自宅で死去。司法からは自殺と判断された堂市の死因に、新羽家に訪れた親戚の医師、桂木雄二は疑念を抱く。不穏な空気が新羽家に渦巻く中、こんどは新羽家の当主に嫁いだ佳織が失踪、そして佳織の妹の夫、滝見が死亡する。桂木は、アメリカに暮らす研究者トーマ・セラに事態の真相究明を依頼する。
「トーマ・セラ」シリーズ 第2作。
第1回福ミス受賞作家、松本寛大の待ちに待ったシリーズ2作目です。数年掛かりの執筆作業、年末のランキング本での暗雲漂う近況報告、とかなり心配していたのですけれど、無事に出版される運びとなって、まずはともかくひと安心です。
今作はタイトルどおり、「妖精」が見える画家を謎の中心に据えた本格ミステリで、閉鎖的な街を取り仕切る崩れ掛けの旧家を巡る連続変死事件を、祖父の葬儀のために居合わせた桂木とボストンにいるトーマとの並行調査によって解き明かしていきます。
オーソドックス且つ王道な寒村旧家系のミステリに最新の脳科学分野からアプローチする手法は、名家の一族や双子と相貌失認症の少年を絡めた前作から一環したテーマであり、デビュー2作目にして既に己の作風、方向性を確立している感があります。
フーダニットとハウダニットに関しては、良くできているというよりも、結果として「良くできてしまった」との印象の方が強いです。納得できる範疇ではあるものの、偶然によって成り立っている度合が高いため、事件の中核を担うトリックとしてはイマイチ役者不足でした。
もうひとつ全体を引っ張る謎として本作では、いくつか挙げられるシチュエーションを基に「妖精」が見える条件を探り出すミッシングリンクものとしての側面も持ち併せているのですが、こちらの方はドラマ部分とのマッチングもかなりのもので、最終的な物語の余韻とも結びついてきます。このあたりの不可分さ、謎の活かし方はさすがですね。
個人的にはかなり好みの雰囲気を持った作家さんなので、次作もなるべく早く読める機会が訪れれば嬉しいです。勿論ムリはせずに、の話ですが。
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