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円谷英明『ウルトラマンが泣いている――円谷プロの失敗』

ウルトラマンが泣いている――円谷プロの失敗 (講談社現代新書)ウルトラマンが泣いている――円谷プロの失敗 (講談社現代新書)
円谷 英明

講談社 2013-06-18
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★★★★☆
1960年代から80年代にかけて、多くの子どもたちが夢中になったウルトラシリーズ。ミニチュアや着ぐるみを駆使して、あたかも実写のように見せる独自の特撮技術を有し、日本のみならず世界の映像業界をリードしてきたはずの円谷プロから、なぜ、創業者一族は追放されたのか。「特撮の神様」と呼ばれた円谷英二の孫にして、「円谷プロ」6代社長でもある円谷英明氏が、「栄光と迷走の50年」をすべて明かします。


 刊行が発表されて以来、ずっと気になっていた本がとうとう発売されました。その名も『ウルトラマンが泣いている――円谷プロの失敗』。今年は円谷プロ創立50周年であり、3月には『円谷プロ全怪獣図鑑』という50年間の集大成たる書籍が出版されましたが、あちらが明の集大成だとしたら、こちらは暗の集大成。口が裂けても円谷プロ50周年記念出版などとは申せない、円谷プロの負の歩みがこれでもかというほどに書き綴られています。
 テレビシリーズの新作すらもまともに制作できず、『ウルトラマン列伝』枠で分割1クールという手段にすがるしかないほどの窮状に追い込まれている円谷プロダクションの現状は特撮ファンなら周知の事実ですが、その裏にあった事情の殆どがこの本では語られています。
 作る度に赤字が増える「ウルトラマン」、チャイヨーとの泥沼裁判、昌弘社長のセクハラ問題、連続する身売り騒動――。ポイントポイントで有名なスキャンダルもあったとはいえ、まさか円谷プロがここまでヤバい状態で長年やってきていたとは、完全に想像の範疇を超えていました。『ウルトラマン』、『ウルトラセブン』の頃の段階で借金額が当時のお金で2億円って……。
 経営悪化はここ最近の話じゃなくて、そもそも最初の時点から火の車状態だったんですね。

 しかも、悪いことに新作の「ウルトラマン」が作られる度に、それが後年に何かしらの遺恨を残しているという。『80』の路線変更も教師篇がイマイチ振わなかったとか、作劇的に難しいとかそんなレベルではなく、円谷プロ幹部のTBS出禁が歴代社長に申し送られるほどの大喧嘩に発展し、それが原因でテレビシリーズの制作が困難になった、平成三部作ですら大幅な赤字を出していた等々、とにかく惨状としかいえないエピソードの数々には驚きを隠せません。
 挙句、一家心中未遂だの、社内クーデターだの、社長以下幹部連中の横領だの、会社の経営がピンチなのにハワイ旅行を敢行した皐社長だの、それがさらに別の問題の引き鉄になるだとか、とにかくドロドロで深刻な問題が山積み。綱渡りどころか、火の点いたロープに片手でぶら下がっているような状態が何十年も続いてきた事実を知り、何も考えず無邪気に作品を楽しんでいた幼少時代の自分すらも責めたくなってくるほどに辛い内容の連続でした。新しい手段を講じてはそれが新たに首を絞め、打開策としてさらなる方法を模索するも、必ずしっぺ返しが待っている。まるで、円谷プロの経営そのものが「血を吐きながら続ける悲しいマラソン」のようです。
 そうした中で遂に究極的に行き詰まり、私たちのよく知るTYOによる買収話に発展するわけです。終章で語られる英明社長のすべてを失った現在の姿には、切なさ以上の喪失感がどっと迫ってきます。

 しかし、注意しなければならないのは、これはあくまでも英明社長から見た円谷プロであり、それらは円谷の半面でしかないということです。
 『ティガ』と『ダイナ』で触れられた怪獣との共存可能性が、『ガイア』の怪獣も地球に生きる命という結論に繋がり、『コスモス』では守るべき存在として描かれる。その怪獣観を一度リセットするために『ネクサス』のスペースビーストは凶悪かつ醜悪な怪物とされ、前作の失敗を受けて『マックス』は原点回帰の復活怪獣路線、それをさらに推し進めた『メビウス』ではM78世界の再定義が行われました。続く『SEVEN X』『超ウルトラ8兄弟』にて作中で並行世界の存在を示唆、『ウルトラギャラクシー』と『ゼロ』ではすべての世界観を“正史”とするマルチバースを導入し、地球人の手を離れたスペースオペラとしての「ウルトラマン」をも見せてくれています。
 創始者一族は確かに円谷プロから消えました。TYO以降の買収劇も、当事者にしてみれば忸怩たる思いだったに違いありません。それは確かです。けれど、平成三部作以降の「ウルトラシリーズ」の流れを振り返ってわかるように、ファンと作品を大切にし、新しい領域に果敢に挑もうとする円谷のスピリッツはいまなお脈々と受け継がれ、健在です。
 だからこれを一概に「乗っ取られた」と表現するのは、個人的には少し違う気がするのです。「ウルトラマン」はまだ終わってなんかいないし、始めに掲げたポリシーが死んだわけでもない。円谷プロにしてみても、それは同様です。創設者一族はいなくとも、いまの円谷も間違いなく円谷の精神を継承しています。大切なのはきっと、その部分なのではないでしょうか。
 まずは7月10日からの『ウルトラマンギンガ』、楽しみにしています。


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はろーすみす

Author:はろーすみす
シリーズものも平気で数年寝かせる積読家。本格ミステリとスター・ウォーズ小説を中心に読み漁り、新刊・話題作はあまり追っていません。

好きなミステリ作家は古野まほろ、はやみねかおる、西尾維新、霧舎巧。
ジャンル外では築山桂と小川一水。
講談社ノベルスをこよなく愛す特ヲタ。

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