2013.06/15 [Sat]
霞流一『夕陽はかえる』
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★★★☆☆
プロの暗殺組織〈影ジェンシー〉で実務を手掛ける〈影ジェント〉の一人、〈カエル〉が不可能状況で殺された。明らかに同業者の手口。同僚の瀬見塚は、〈カエル〉の遺族の依頼で真相を追う。だが、〈カエル〉の後釜を狙う〈影ジェント〉たちが瀬見塚に刃を向け、彼らの怪奇を尽くした決闘の応酬は〈東京戦争〉と呼ばれるほどに発展していく。殺し屋による殺し屋殺しと推理の行方は?
「〈影ジェント〉シリーズ」第1作。
『2008 本格ミステリ・ベスト10』第8位。4月に発売された『落日のコンドル』に手を出そうと思ったら、どうやらシリーズものらしかったので予習がてらに読んでみました。〈影ジェント〉と呼ばれる殺し屋たちが暗躍する裏社会にて、ひとりの男が命を落としたことに端を欲する一連の出来事の顛末を描いたイロモノ系ミステリです。
〈影ジェント〉や〈影ジェンシー〉等のネーミングからわかるように、本作の世界観はシビアでハードボイルドな殺し屋社会ではなく、ライトでコミカル、ナンセンス。登場するキャラクターも個性豊かで、それぞれに表の職業に即した暗器を持ち、必殺技じみた攻撃で相手を血祭りに上げるなど、バトルものの少年マンガさながらのノリで話が進みます。
そんな前提条件の下、果たして本格ができるのか?と不安にならなくもないのですが、謎解き、トリック、どんでん返し、事件の裏に潜む策謀から伏線の仕込みまで、実際には思った以上にフォーマットに沿った真っ当なミステリとなっているのが驚くところです。
不可能状況の理由付けに〈影ジェント〉の設定がきちんと反映されている点も、ミステリとしては優秀。殺しの手柄を我が物とするため、容疑者全員が自白し始めて捜査が難航する前代未聞なシチュエーションも面白い。
そのぶん、用いられるトリックがびっくり人間の論理の中で展開されることになり、万人が頷ける真相になっているかというと甚だ怪しかったりもするのですけれど。ミステリ的にアリかナシかの枠を飛び越えて、「この作品らしい」と読者に感じさせることができれば、とりあえず成功といえるのではないでしょうか。
余談ながら、著者の命名した「Sin本格」なる新ジャンルや、作中に散りばめられた〈銘屍〉〈入殺〉〈血算〉といった言葉遊美の数々には、思わず清涼院流水を思い出してしまいました。
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