2013.06/04 [Tue]
後藤リウ『聖者が殺しにやってくる』
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★★★☆☆
カクレキリシタンの風習を色濃く残す九州某所。14年前、地元の名門・堂林家で起きた殺人事件は、同家が信仰するシノビ宗の殉教聖者に擬えたものだった。その事件唯一の生き残り――堂林暦の帰還を機に、今ふたたび無慈悲な“見立て殺人”の幕が上がる! 四つの死体は、聖者のタタリか。
隠れキリシタンを先祖に持つ田舎の旧家を舞台に、陰惨な見立て殺人が連続する王道かつストレートな本格ミステリ。どうやら著者さんはラノベ畑で活躍している人らしく、今作が初の一般文芸作品となるようです。
連続する不可解な殺人と血塗られた一族にまつわる秘密、14年前の事件の真相――と、いかにもなテイストがこれでもかと盛り込まれたツボを押さえたつくりは、実際に細かな伏線やひっくり返し、論理展開などもよくできておいて、ミステリとしてはかなり手堅い。水準点は優にクリアしています。
しかし同時に、あまりに教科書的すぎて新たな驚きや挑戦が見出せないのもまた事実です。先頃発売された周木律『眼球堂の殺人 ~The Book~』もそうでしたが、ミステリとはいわば可能性の追求なのです。同じようなシチュエーションや殺害方法が氾濫する中で、いかに新たな魅せ方を披露できるか。或いは、これまで誰にも見たことのないような世界を表現できるか。そのチャレンジ精神こそが、ミステリ小説をより面白いものへと深化させ、発展させてきました。
既定路線に乗っかって、どこか既視感のある展開が繰り広げられ、同じところでどんでん返しが用意されている。減点方式では決してマイナスされないけれど、加点方式ではあまり伸びない。既に数多の作品が上梓されている中で、そんなありきたりは求められていません。われわれ読者が真に求めているのは、プラスαの独自性なのです。
“古典的舞台に鮮烈なキャラクター”というキャッチコピーが付けられている一方で、いざ読んでみると、オビで謳われている「都市伝説探偵」が思った以上にインパクトになっていないのも宜しくない。せっかく、女子小学生と都市伝説探偵というキャッチーなコンビが活躍するにも関わらず、それらのキャラが地に足着きすぎて、逆にキャラものになり切れていない印象を受けます。もしかしたらそれは、ラノベと一般の違いを意識して敢えて行っていたのかもしれませんが、本作においては完全に裏目です。せめて角川らしく、キャラクター性を作品の“売り”にできれば、また違ったと思うのですが……。
堅実な出来に反して、訴求力不足。膨大かつ広大なミステリの海原で生き残るには、オリジナリティの面で薄味すぎるのがネックです。
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