2013.05/30 [Thu]
北山猛邦『人魚姫 探偵グリムの手稿』
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★★★☆☆
安心しなさい、海のお姫さま。僕は真実しか描かない絵描きだ。
整合性のとれない風景を描くつもりはない。
いずれキャンパスの中で君は、笑顔をこちらに向けているだろう。そんなふうに、むくれた顔じゃなくてね。
王子と結婚した日、人魚姫は、自らに剣を刺し、泡となって消えた。その翌日、王子が殺される。 王宮が動揺するなか、王子の側近くにいて、消えた人魚姫に疑いがかかるが……。11歳の少年ハンス・クリスチャン・アンデルセンは、海の国から来た人魚の姫と姉妹だという少女セレナと、風変わりな旅する画家ルートヴィッヒ・エミール・グリムとともに、王子殺害の真犯人を追う!
かの有名なアンデルセンの『人魚姫』を下敷きにした童話ミステリ。人魚姫と結ばれずして終わってしまった王子の殺害事件を軸に、父親を失ったばかりのハンス少年と人魚姫の妹との出逢いから始まる新たな物語を描いた、オリジナル『人魚姫』の後日譚であり、ファンタジックな設定を導入した本格ミステリに仕上がっています。
主人公のハンスは後に数多くの作品を世に残すことになるアンデルセンその人であり、人魚のセレナの他に、これまた著名な童話作家のグリム兄弟を兄に持ち、本作では探偵役を務めるルートヴィッヒとの関わりを通して、人生の指針となる“何か”を得る。やがて明らかになる魔女のルーツにまつわる悲劇も、“もしかしたらあったかもしれない物語”として世界観の奥行きを深め、歴史ミステリ的な側面も持ち合わせているのがミソです。
一方で、各章毎に挿入される魔女の物語はやや親切に書かれすぎているきらいがあり、必要以上に情報を与えているため、多くの読者が仕掛けに気付けてしまうのが難点でしょう。
王子殺害事件の真相に、せっかくのファンタジー要素を殆ど活かせていないところも勿体ない。前述のポイントにて特殊設定の使い方が見え透いてるだけに、いくら“物理の北山”といえど、いやに現実的な物理トリックでゴリ押すだけでなく、フーダニットやハウダニットにも、もっと積極的に魔法の存在を絡めてきても良かったように思います。
余韻を残しつつも読後感は爽やかで、お話には大満足。あとはミステリ部分にもうひと捻り欲しかったところです。
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