2013.05/25 [Sat]
月原渉『月光蝶 NCIS特別捜査官』
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★★★★☆
米軍の立場を保全するためには、軽々に譲歩を重ねるべきではないのだ。
だからこそ基地に事件はない。米軍に犯罪者はいない。そのように思ってもらわなければ困る。
我々は良き友人なのだよ
米軍女性士官の死体が基地内で発見された。同時に基地の外で大量の血痕も見つかり、米海軍犯罪捜査局(NCIS)が捜査を開始する。だが被害者が基地を出入りした痕跡はゼロ。行き詰まる捜査、難攻不落の出入記録。犠牲者は、いかにして基地を出て、殺されて戻ってきたのか? 全てのゲートと鉄壁の警備をすり抜けて、二つの死体が移動する!
横須賀の米軍基地で起こった殺人事件の真相に迫る密室ミステリ。フェンスを一枚隔てて内と外でまったく別の世界とルールの下に人々が生活している環境の下、ふたつの“国”を跨ぐようにして発生する一件の殺人事件。鉄壁のゲートにて出入りが厳重に管理される物理的状況、日本とアメリカの間に横たわる外交的問題、さらには両国間の文化の違いによる心的フィルターから成る多重密室を、基地内を担当するNCISのレアード捜査官、外の街で動く横須賀市役所基地対策特別室の泉水沙織の両名の視点から、同時並行的に捜査してゆく形で物語が進行します。
題材が題材だけにもっと社会派よりの内容になるかと思いきや、在日米軍と隣接する街の住民との関係、互いの間にある埋められない溝といった問題を提起しつつも、あくまでも密室の解明に重きを置いたストレートな本格だったのには意外でした。
トリックに関しては、いまさらこのネタを使うのかというほどに王道でありきたりな代物で、過度に期待していると裏切られます。しかしながら、そのありふれたトリックと、作中で掲げられたテーマ、犯人の動機、舞台となる場所柄といった各要素との融和性がいちいち高く、結果的には作品としてのレベルを大きくアップさせてもいるのです。
さらには、作中で用いられているトリックが、物語を俯瞰するという読み手にとってごく当たり前の行為すらも目くらましにしてしまうメタ的な仕掛けにも通じており、単純に「ありがちなネタ」と一蹴できない部分があります。
終盤におけるサプライズは仕込めたハズの伏線から都合良く「逃げた」感が無きにしも非ずですが、皮肉めいた結末といい、総じて出来の良い作品でした。
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