2013.05/18 [Sat]
岡崎琢磨『珈琲店タレーランの事件簿 また会えたなら、あなたの淹れた珈琲を』
![]() | 珈琲店タレーランの事件簿 また会えたなら、あなたの淹れた珈琲を (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ) 岡崎 琢磨 宝島社 2012-08-04 売り上げランキング : 5245 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
★★★☆☆
その謎、たいへんよく挽けました
京都の小路の一角に、ひっそりと店を構える珈琲店「タレーラン」。恋人と喧嘩した主人公は、偶然に導かれて入ったこの店で、運命の出会いを果たす。長年追い求めた理想の珈琲と、魅惑的な女性バリスタ・切間美星だ。美星の聡明な頭脳は、店に持ち込まれる日常の謎を、鮮やかに解き明かしていく。だが美星には、秘められた過去があり――。
「珈琲店タレーランの事件簿」第1作。
若くして珈琲店のバリスタを務める切間美星が、お店に持ち込まれた様々な謎を解き明かす日常の謎。三上延『ビブリア古書堂の事件手帖』がブームを巻き起こして以来、乱発されているいわゆるビブリア系ミステリです。
対人関係に難アリなどこか陰のある美人さんと、彼女に恋心を抱く語り部による安楽椅子探偵モノ。物語が進むにつれて明らかになっていく探偵役の過去。次第に大きくなる不穏な影。キャラ配置からストーリーラインまで、よくもここまで似通ったよなぁと思わずにはいられない、完全に柳の下のドジョウ作品ですが、これが結果として相当売れているようで。方々で話題となって、こうして手に取る読者が絶たない以上、まんまと宝島社の思惑どおりなんでしょうね。
さて、本格ミステリとしてどうなのかという観点でいうと、やや厳しいと言わざるを得ません。特に序盤はイマイチで、第二章に至ってはあまりにも謎が謎として成立していない状況に、怒り心頭に発し、リタイアしてやろうかと思ったほどでした。
が、そこから、なんとか持ち直します。第四章「盤上チェイス」では地図が添付されていないため、京都の地理に明るくない人間に対してフェアな問題提示ができているとは言い難いし、第六章「Animals in the closed room」も解答篇に対して描かれるべき地の文が足りていない感は確かにあります。けれど同時に、(叙述トリック的な意味合いではなく)読んでいて作者の「読者を驚かせてやろう」という気概も少なからず伝わってくるのです。
『ビブリア古書堂』のように単体のロジックで勝負できるクオリティにはない。投稿作からミステリ部分を大幅強化してこのレベルというのも現状、不安は残る。
とはいえ、センスは感じます。ミステリの書き方やお約束をもっと学んでフェアプレイに徹すれば、意外と良い作家に育つのではないでしょうか。
――と、言っている間にもう2巻目が出ているんですね。むむむ。
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