2013.05/15 [Wed]
霧舎巧『名探偵はどこにいる』
![]() | 名探偵はどこにいる (講談社ノベルス) 霧舎 巧 講談社 2009-08-07 売り上げランキング : 825570 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
★★★★☆
「あたしたちがやろうとしているのは……殺人なのよ」そう言って双子の姉妹が向かったのは、南海に浮かぶ、終ノ島。やがて姉妹の通う高校の男性教師が、島で死体となって発見される――! 果たして、事故か、殺人か。二人の言っていた「殺人」とはこのことなのか……? 刑事・今寺は、敬愛する今は亡き後動警部補の遺志を継ぎ、彼女たちの無実を証明できるのか!?
「《あかずの扉》研究会 外伝」第2作。
『カレイドスコープ島』に登場する駐在の今寺敬二を主役に据えた、『名探偵はもういない』の続編です。前作では小学生だった今寺少年ですが、今回はぐっと年齢が上がり、いまや妻を持つ立派な一刑事。さらには、過去パートとして今寺少年の中学時代のエピソードが挿入され、これが物語内で大きな役割を担ってきます。
霧舎作品は本格ミステリの側面にプラスして、作中に恋愛要素が散りばめられていることが多いため、一部では“ラブコメミステリ”とも称されています。昨今の「霧舎学園」シリーズではその辺りがなおざりにされて久しいのですけれど、この作品はひと味もふた味も違いました。
限りなく疑わしい状況から容疑者がシロであることを証明してみせる本筋の事件もさることながら、謎解きによって明らかになる今寺の中学時代の淡い想い出の真実が、とにかく胸に迫る。同級生の少女が今寺に投げ掛けた不可解な言動――。その理由が紐解かれるにつれ、そこに込められた想いの大きさを読者は知ることとなり、伏線のひとつひとつを一行毎に確認してゆく作業は、それが取り戻しようもない時間であることを再認識させられると共にどうしようもない後悔とノスタルジーが相俟って、奇跡的なまでの苦しさと切なさを演出します。該当部分を読んでいる最中、「わかっているから、もうやめて!」と心の中で思わず叫びたくなりました。
ミステリとしての謎解き作業が恋愛小説の物語性を最大まで高め、限りのない深みを与える。霧舎巧が得意とするふたつの要素が究極的なレベルで結びついた、ひとつの完成形といえる作品です。
まさに、霧舎が書かずに誰が書く! 著者の既刊の中では埋もれがちながら、もっと評価されて良い小説でしょう。こういう作品こそ、多くの人に読んで貰いたい。
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