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映画『相棒SERIES X DAY』

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★★★★☆
ネットに不正アクセス、機密情報を流していた疑いでサイバー犯罪対策課にマークされていた人物が死体で見つかった。殺人事件として事件を担当する警視庁捜査一課刑事・伊丹憲一と、不正アクセス容疑を追うサイバー犯罪対策課専門捜査官・岩月彬は、いがみ合いながらも捜査を進めていくが、目に見えない圧力に曝され、やがて捜査は行き詰っていく。そんな中、特命係の杉下右京を始めとする面々も、謎のデータに触れ、否応無く事態に巻き込まれていくのだった。その裏に蠢くのは、政官財の巨大な権力構造、さらには金融封鎖計画“X DAY”の存在が浮上。伊丹と岩月は、事件の真相に辿りつけず焦燥感を募らせる……。 (2013年 日本)


「相棒」スピンオフ劇場版 第2作。
 興行収入10億円を突破し、ノリにノっている『相棒』の合計4作目になる映画版です。今回は満を持しての伊丹主役篇! すっかり熱血漢なキャラクターが定着した伊丹と、常に冷静に物事を判断するクールな岩月が行き掛かり上コンビを組んで、殺人事件の裏に潜む壮大な思惑に挑みます。
 新キャラクターの岩月は、既にSeason 11 の「ビリー」、「酒壺の蛇」にて番宣がてら本編にも登場し、伊丹との間に揺るぎない信頼感を通わせている様が見てとれましたが、本作ではついにその経緯が語られるわけです。どこか冷めた思考の持ち主である岩月と、捜査に真っ向から体当たりしていく伊丹という正反対のふたりが行動を共にする過程で絆を育み、心を通わせるといった筋書きはバディものの王道で、刑事として未熟な岩月が、伊丹に影響を受けてひとつ成長する過程がしっかりと描かれています。

 事件の“裏”にあるすべてを知る岩月と、難しいことはわからないが、いま目の前にある殺人事件の解決に全力を注ぐ伊丹。真相に肉薄しているぶん、ともすれば岩月の方が主役になり兼ねないストーリーでありながら、伊丹の存在感は圧倒的です。伊丹自身の活躍は勿論のこと、何よりも岩月を通して伊丹という刑事のスタンス、在り方、カッコ良さがびしばしと伝わってくる。
 決して特命係のように政府の陰謀や秘密裏の計画にズバズバと斬り込んでいく立場ではないけれど、現場のいち刑事として、執念と信念の下にただただまっすぐ自分のやるべき仕事をこなす。特命係が窓際部署の刑事風情が日本を揺るがす大事件を平気で相手どるセカイ系だとしたら、伊丹の場合は闇に葬り去られそうになった案件を、あくまでも普通の事件として引き摺り出し、収束させる逆セカイ系とでも言うのでしょうか。このあたりの立ち位置の違いが、スピンオフのスピンオフたる所以ですね。

 麻薬同然のクソ政策アベノミクスやらキプロス危機やらが世間を賑わせているこのタイミングに、金融崩壊や預金封鎖をテーマに掲げたところも慧眼でした。目の前の嘘に飛びつき、その先にあるモノが何なのかを考えない人々。何度も続く銀行のシステムダウンが人々の不安を煽り、取り付け騒ぎに発展する。そんな中、事故によって突如として手の届く範囲に現れた現金に群らがる民衆たち。
 バイクの衝突で宙に舞い上がる紙幣の演出はかなりムリクリな感が否めないとはいえ、劇中で描かれた事態を決して絵空事だと言えない現状が怖ろしいです。
 ネットで感想を漁っていると、日本人の民度がどうこうという意見もあるようですが、さすがにそれは過信にすぎる。自分の口座からお金が卸せなくなったら間違いなくパニックに陥り、場合によっては暴動に発展するでしょう。東日本大震災における集団買い占めや風評被害は記憶に新しく、何より私自身、震災翌日に寿司詰め状態で半日以上某駅で足止めを食らい、その際に暴動一歩手前の怒鳴り合いとぴりぴりとした空気感を直に体験しているため、非常にリアルに感じました。

 今回の劇場版では政府や議員、官僚はあくまでも“倒すべき敵”でない点もポイントです。「X DAY」とは来るべき金融崩壊の日の予測データであり、一連の事件は国民を使った壮大な予行演習ではあるものの、それはあくまでも「X DAY」への対応策のシミュレーションであり、備えの一環なのです。
 これも震災絡みの話になってしまうのですが、たとえば福島第一原発の事故の正確な情報が伝わってこない、娘民に対してすべての真実が開示されていないといった非難が当時噴出しましたが、ぶっちゃけ持論を申せば、対策を練る側の人間が状況を把握しているのなら、パニック回避のために国民に嘘をつく、或いは情報を秘匿するのはむしろアリだと思っています。だって、何だかんだ言って買い占めや風評被害が起きているんだもの。人はそこまで割り切って大人しく待つこともできないし、賢く行動することもできない。結局のところ、自分が一番大切だから安全圏に身を置きたいのです。
 それなら、いっそのこと、ある程度の情報操作で起きるであろうパニックを軽減させるのは、別段憎むべきことではないですよね? 勿論、それには状況が収まってからきちんと真実を詳らかにすることが必須条件なわけですが、何でも素直正直に話さなければならない、黙っていたから糾弾されるべきという風潮はちょっと違う気がするんですよね。
 作中で指摘されていたとおり、殺された中山の行動は「X DAY」を前倒しにし兼ねない危険なものだったし、政府の人間が口封じに彼を殺したわけではない以上、流出した情報を秘密裏に処理しようとした雛ちゃんらの姿勢は間違ってはいないかな、と。

 右京さんや神戸君ががっつり絡んでこなくとも、きちんと『相棒』の世界観を表現できていたことで、今後のシリーズに必ずしも特命係――杉下右京が必要でないことを証明してみせたのも大きいです。本作が右京さん退職後の『相棒』の可能性を探るための試金石でもあると述べてしまうのは、ちょっと穿ちすぎでしょうか。
 貨幣経済が信頼の下に成り立っているという月本幸子の話を踏まえて、岩月と伊丹の驕りの約束=信頼関係として〆めたのもテーマにマッチングしていて良かったです。事件は解決したけれど、「X DAY」自体はいつかやってくるだろうと匂わせる不穏なラストも『相棒』らしい。


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はろーすみす

Author:はろーすみす
シリーズものも平気で数年寝かせる積読家。本格ミステリとスター・ウォーズ小説を中心に読み漁り、新刊・話題作はあまり追っていません。

好きなミステリ作家は古野まほろ、はやみねかおる、西尾維新、霧舎巧。
ジャンル外では築山桂と小川一水。
講談社ノベルスをこよなく愛す特ヲタ。

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