2009.09/16 [Wed]
道尾秀介『向日葵の咲かない夏』
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★★☆☆☆
ミチオ君も、みんなと同じだったんだね
夏休みを迎える終業式の日。先生に頼まれ、欠席した級友の家を訪れた。きい、きい。妙な音が聞こえる。S君は首を吊って死んでいた。だがその衝撃もつかの間、彼の死体は忽然と消えてしまう。一週間後、S君はあるものに姿を変えて現れた。「僕は殺されたんだ」と訴えながら。僕は妹のミカと、彼の無念を晴らすため、事件を追いはじめた。あなたの目の前に広がる、もう一つの夏休み。
と、いうわけで売れに売れている『向日葵~』を今更読みました。
この小説、好き嫌いがはっきりするというよりはむしろ、その評価は傑作か駄作かのどちらかという極端な分かれ方をすると思います。終盤の展開が認められるか、有り得る話として捉えることができるか、ということでその評価はがらりと変わることでしょう。
で、自分の場合は断然、後者。ダメでした。
まず最初に読者を試すのは“S君が蜘蛛に生まれ変わって、自分に話し掛けてくる”という現象の許容。これが許せない読者は、この時点で脱落決定でしょうね。
しかしその実、このS君の“転生”は物語を進める上での重要なキーポイントでもあります。
(以下、ネタバレ有り)
つまり、作者側としては早い段階で、「ミチオ君が人ではないものを“人”として扱い、接する人間」であることをはっきりと提示しているわけです。しかもそれが物語を始めるにあたっての根幹の部分として設定されている。これはかなりフェアです。普通、ミステリならば、いかに巧妙に伏線を忍ばせておくかが重要になってきますが、この作品は堂々と目の前にヒントをちらつかせているのに、読者には気付かせない。その技量といったら半端なものではないと思います。すごいです。
とはいえ、あの結末が許せるかはまた別の話で。
400ページ超の小説を読む労力と、意外と面白く読み進められた物語でああいうひっくり返し方をされると、今までの時間を返して!と言いたくもなりますよ。実際。
加えて、いわゆる純文学ちっくな、主人公が幻想的な世界に迷い込んで不思議な体験をする、みたいな物語を現実的に解決しようとすると、こういう鬱展開になってしまうのか、とも思いました。そういう意味では本作はメタ純文学というべきかもしれません。
技量はあるし、趣向も買う。
ただし、どうしても終着の仕方が許せない、というわけで★×2
ミステリとして読まなければセーフだったのですが……
追伸。
ミチオ君=道尾秀介で、「物語」を終わらせる=ペンを置く、という作者犯人モノなのかと途中まで本気で思っていたのは秘密。
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