2013.02/25 [Mon]
中山七里『おやすみラフマニノフ』
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★★★☆☆
秋の演奏会を控え、第一ヴァイオリンの主席奏者である音大生の晶は初音とともに、プロへの切符をつかむために練習に励む。しかし完全密室で保管される、時価2億円のチェロ、ストラディバリウスが盗まれた。彼らの身にも不可解な事件が次々と起こり……。ラフマニノフの名曲とともに明かされる驚愕の真実!
「岬洋介シリーズ」第2作。
前作『さよならドビュッシー』から語り手がバトンタッチして、音大を舞台に演奏会妨害事件の顛末が描かれます。今作で主題となる謎は密室からの楽器消失。それに続く形で学長の殺人予告やピアノの破壊といったいくつかの不穏な出来事が発生し、最終的にそれらの謎を大学講師である岬洋介が解き明かすというフォーマットは前作同様です。
サプライズ一点突破だった前作に比べ、今回は密室トリックや操りテーマなど、より本格に寄った趣向が凝らされており、ミステリ要素にも力が入れられています。しかしながら、それらの試みが特段優れているかというとそうでもなく、ある程度こなれた本格読みがミステリを期待して手に取るにはやはり厳しいです。
また、お話の流れとしてもヴァイオリン盗難事件そのものにはあまり重きが置かれておらず、中盤は晶を襲うトラブルの嵐と挫折と苦悩、そして復活のドラマを語ることに専念されているため、謎解きが殆ど停滞状態のまま放置されているのもミステリ的には褒められないところ。
音楽小説、青春小説として読ませる魅力があるだけに、下手にミステリに振っていることがむしろ足枷となっているような……。これならいっそ、ミステリ部分をばっさり切り捨ててしまった方が作品としても綺麗な気がしました。
まぁ、仮にも「このミステリーがすごい!大賞」の看板を背負っているので、それをやっちゃうと本末転倒なのでしょうけれど。
語り手が交代する都合上、探偵役を務める岬先生以外の主要登場人物が入れ替わってはいるものの、ところどころに前作とリンクしているシーンが散見し、意外にシリーズ間の繋がりは深いです。特に、『さよならドビュッシー』でヒール役を演じた下諏訪嬢は、今巻でかなり印象が変わりました。彼女が主役を張るエピソードも、是非とも書いて頂きたいものですね。
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