2013.02/18 [Mon]
初野晴『カマラとアマラの丘』
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★★★★☆
十七世紀にデカルトという哲学者の「動物機械論」によって、動物から心や魂が排除された。
言葉を持たない動物は、どんなに鳴いたり、呻いたりしても、なにも感じない。
その結果、生きた動物を使ったさまざまな実験をすることが可能になった。
廃墟となった遊園地、ここは秘密の動物霊園。奇妙な名前の丘にいわくつきのペットが眠る。弔いのためには、依頼者は墓守の青年と交渉し、一番大切なものを差し出さなければならない。ゴールデンレトリーバー、天才インコ、そして……。彼らの“物語”から、青年が解き明かす真実とは。
『2013 本格ミステリ・ベスト10』第10位の作品です。いままさに命を終えようとしているペットたちと、彼らにまつわる4つの哀しい物語。初野晴といえば、どの著作もマイノリティや社会的弱者をテーマに掲げていますが、本作においてもその作風は一貫しており、障害者や世間に疎まれている老人らが作品内で重要な役割を与えられています。
しかしある意味でそれ以上に衝撃的なのは、見方によっては人間のつくった世界で生きる動物たちこそが社会的な弱者であるという視点です。モノとして扱われ、感情のない存在として人間の好き勝手にされる動物たち。そんな彼らの悲痛な訴えは人間たちに届くことなく、誤解されたままに一生を終えてゆく。『カマラとアマラの丘』はそうした悲劇に彩られた連作集なのです。
全4篇のうち最も印象的だったのは第3章「シレネッタの丘」です。私は、ミステリ小説の真相はリアリティを重視したものよりも多少現実から浮き上がったものの方が好みなのですが、この第3章は真相のインパクトという面では突出しています。通常のミステリでは到底“あり得ない”と無下にされてしまいそうなネタを、初野晴特有のファンタジックでリリカルな世界観と、既出の第1章、第2章で読者がその事実を受け入れられるだけの下地をつくることによって、ミステリのオチとして万人がアリだと感じられるようにしてしまう。正直、このタネに説得力を持たせるのは至難の業だと思うのですけど、それを難なくやってのける手腕には脱帽しました。
正統派のミステリとしては「ヴァルキューリの丘」も秀逸で、それぞれストーリーも読ませるものばかり。『本ミス』10位圏内に選ばれたのも納得です。
UMAファン的には「ブクウスとツォノクワの丘」でビッグフットを取り上げているところにも注目でしょう。テレビのUMA特集やUMA本をいくつも観たり読んだりしていると、“UMAを探している自分”な人が少なからずいることに気付かされますからね。耳の痛い話です。
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