2013.01/24 [Thu]
中山七里『さよならドビュッシー』
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★★★☆☆
何にせよ、成功する人間はどこかで無茶をするもんだ。
平坦な道、穏便な場所に恋々とするヤツは山にも登れないし、
ましてや空を飛ぶことなんて絶対にできやしない
ピアニストを目指す遙、16歳。祖父と従姉妹とともに火事に遭い、ひとりだけ生き残ったものの、全身大火傷の大怪我を負う。それでもピアニストになることを固く誓い、コンクール優勝を目指して猛レッスンに励む。ところが周囲で不吉な出来事が次々と起こり、やがて殺人事件まで発生する――。
第8回「このミステリーがすごい!」大賞受賞作。
前々から興味はあったのですが、「このミス」大賞受賞作ということもあって敬遠してきた作品です。そもそも『このミス』自体が広義のミステリーという名のエンタメ小説ランキングであり、あまり本格に重きを置いていなことがわかっているので宝島社のミステリー新人賞受賞作と言われるとどうしても食指が動き難いものがあるんですよね。
本作はピアニストを目標にする少女が様々な苦難に打ち勝ち、コンクールの舞台に立つまでを追ったサクセスストーリーで、その過程で彼女の周りに陰惨な事件と不穏な影がちらつきます。全体的にはミステリというよりもかなり青春小説に寄っていて、解説でも評されているとおりいわゆるスポ根ものの要素が強いです。度重なる不運と逆境、立ちはだかる壁、もうダメだと思ったどん底から精神力と発想力で巻き返しを図るクライマックスは、これぞスポ根!というべき興奮が待っています。この熱さは『スキップ・ビート!』、『夢色パティシエール』、『カレイドスター』あたりの女の子が頑張るスポ根アニメに通ずるものがあって、個人的には凄く好みでした。
(ちなみに関東圏ではこの1月から『夢色パティシエール』が毎週月曜日18:30~ TOKYO MXにて、『カレイドスター』が毎週木曜日18:00~ テレ玉にて再放送中なので未見の方には是非観て頂きたい。両方とも素晴らしい作品です)
ただ、ミステリとしてははっきり物足りないです。作品の核となる謎は本文を読み始める前、あらすじを読んだ時点で抱いた危惧がそのまま形にされている上、ところどころに伏線が張られている反面、決定打のいくつかは読者には秘されているため微妙なアンフェア感が漂います。
というか、この手のトリックはアンフェアに傾いてしまうのを如何にして回避するのかが腕の見せどころのハズなのに、埋められる描写も埋めず、扱いが難しい部分には平気で目を瞑ってしまうのは安直すぎるでしょう。サプライズ先行で配慮もなく流行に乗っかるのは本当にやめてほしい。
それにしてもこの作品、コンクールの場面とその結末にドイツ映画の『4分間のピアニスト』を思い出させます。
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