2012.12/29 [Sat]
美輪和音『強欲な羊』
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★★★☆☆
どうしていつも悪いのは、わたくしなの? 何で誰も沙耶子の邪悪さに気付かないのよ!?
この子が羊の仮面の下にどす黒い本性を隠していることを、なぜ、誰も見抜けないの!?
とある屋敷で暮らす美しい姉妹のもとにやってきた「わたくし」が見たのは、対照的な性格の二人の間に起きた数々の陰湿で邪悪な事件。ついには妹が姉を殺害するにいたったのだが――。“羊の皮を被った狼”は姉妹どちらなのか? 「強欲な羊」に始まる全5編で贈る“羊”たちの饗宴。
女性の狡猾で強かな本性、嫉妬深さと執念深さをクローズアップしたイヤミス短編集。前々から私は羊という動物が苦手で、よくよく見てみると気持ちの悪いあの顔が好きになれないのです。本作では女性の黒い部分を語る上での比喩に“羊”を用いており、ファンシーさの象徴としての羊ではなく、どことなく不気味な仮初の可愛さを纏った存在として捉えられています。表紙イラストも一見ライトですが、眺めれば眺めるほど異様に感じられてきて、作品内容を体現するという意味ではこれ以上ないくらいに完璧。気の早い話ですけれど、来年度本ミスの「装丁大賞」で俎上に載ることは請け合いでしょう。
全体に、読者側に与える情報を制限することでサプライズ演出に繋げる構成を採っている作品が多く、どちらかといえば叙述特化型のミステリといった風合いです。物語のタネ自体はわりと王道展開というか、想定の範囲内に収まってしまうため、些か食い足りない。発想的には面白かった「ストックホルムの羊」も、タイトル付けで盛大に失敗していると言わざるを得ません。
『着信アリ』の脚本家だけあってラストはミステリというよりもホラー寄り。ミステリ読み的にはすっきりと解決しないので何ぞ?と思わなくもないのですが、小説の〆め方としてはアリなのかな。ただ、ミステリの土俵でなお且つ無垢を装った女性に羊がテーマの暗黒系寓話集というと、どうしても米澤穂信『儚い羊たちの祝宴』を想起させるわけで。ちょっと被りすぎだよなぁ。
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