2012.12/21 [Fri]
椙本孝思『魔神館事件 夏と少女とサツリク風景』
![]() | 魔神館事件 夏と少女とサツリク風景 (角川文庫) 椙本 孝思 toi8 角川書店(角川グループパブリッシング) 2012-09-25 売り上げランキング : 516645 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
★★★☆☆
人はそうやって大人になる。
成長とは、自分にできることとできないこととを延々と判別し続ける作業なんだよ
覚えのない女性からの電話により、「魔神館」と呼ばれる洋館の落成パーティに参加することになった高校生・白鷹黒彦。果たしてそこは、12星座に見立てた石像と、妙な配置の部屋がひしめく妖しげな洋館だった。そんな館での夜、不可解な殺人事件が発生。嵐で孤立する中、その後もありえない状況で次々と人が殺されていく……。犯人は参加者か、それとも館に佇む魔神像の仕業か!? 黒彦と世界最高の知性・犬神清秀の推理が始まる。
「迷探偵・白鷹黒彦の事件簿」第1作。
2007年刊行作の文庫化。かつて世界最高の知性と呼ばれた男とその妹で自称ロボットの電波系ぼくっ娘、高校生の白鷹黒彦の三人が魔神館で起こった惨劇に挑む館ミステリです。
怪しげな名前をした謎の建築家、十二星座になぞらえた各室、呪術に見取り図、見立て殺人、とオーソドックスな新本格のガジェットてんこ盛りながら、最終的には予想だにしないところに着地してみせる一種のアンチミステリ的作品です。確かに、これが別ジャンルの作品だったのなら、わりと見られるパターンではあるのです。しかし、それをミステリの土壌でやるとなるとまた別の話で、良い意味でも悪い意味でも読者を裏切ってくれる斬新かつ新鮮な(ただし脱力確実の)オチとなっています。
実際、アンチミステリというのは非常に扱いが難しいテーマのひとつです。犯人が誰で動機が何で犯行方法がどうだ、といった本来ミステリに期待される要素を意図して外してくるのだから、それだけ読み手にそっぽを向かれる可能性も高くなる。では、そうしたうるさ型をどうやって黙らせるかといえば、そこはやはりミステリとしての基礎を完璧に固めて文句を付けられない代物に仕上げた上で、自らの手によって徹底的に破壊するしかないのです。
その意味では本作は、あまり褒められた出来ではありません。オチに向けて撒かれている伏線の量も少ないし、作中でクロちゃんが披露する推理も甘々です。しかしながら、それらの瑕を勘案しても余りあるほどに、この作品の真相は突き抜けています。10人読んだら8人は壁本だと罵倒しそうなトンデモ小説には違いないのですが、それでもこれは現代ミステリ史にその名を刻んでもおかしくない稀代の迷作だと思います。
ちなみに文庫版の表紙は山口芳宏の「島」シリーズなどでもお馴染みのtoi8さんが担当。単行本の表紙を飾った果菜らしさ全開の箸井地図テイストを上手く落とし込んだキャラデザが秀逸です。それにしても全体から漂う『クビキリサイクル』臭が凄まじい。
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