2012.12/01 [Sat]
大山誠一郎『密室蒐集家』
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★★★★☆
密室蒐集家? あれは警察内部で囁かれるただの冗談や。本当におるはずがない
目撃された殺人と消えた犯人、そして目の前を落下する女、鍵を飲み込んだ被害者に雪の足跡……いつの間にか現れた「彼」の前に開かない「扉」はない。
戦前から現在までの様々な時代、色々な場所で起きた密室殺人を密室蒐集家なる正体不明の謎の男が解いて回る連作短編集です。収録されているのは「柳の園 一九三七年」、「少年と少女の密室 一九五三年」、「死者はなぜ落ちる 一九六五年」、「理由ありの密室 一九八五年」、「佳也子の屋根に雪ふりつむ 二〇〇一年」の全5編。同じ密室というシチュエーションでも、それぞれアプローチの仕方が異なり、バラエティに富んだ作風になっているのは勿論のこと、どの章においても密室の解明を最終命題としているわけではなく、そこを起点としてさらに犯人当てにまで行き着かせてしまうところが驚異的です。
個人的なベストは“なぜ犯人は簡単すぎる密室を作ったのか”という謎を主題にした「理由ありの密室」で、密室講義を絡めて語られるその理由には密室ミステリにこんな使い方があったのかと感嘆しました(いや、ダジャレじゃないですよ?)。「少年と少女の密室」もトリック解体から犯人特定までの手際に目を見張るものがあります。
一方、各編が短いせいもあってか、懐中時計のくだりなど一部で論理の飛躍が見られるのと、人間関係や犯行状況において些か都合が良すぎるように感じる点もあり、「それはそういうもの」と機械的に処理し、作中における必然性を投げてしまっている箇所が少なからずあるのが好悪割れるところでしょうか。
昨日のエントリーで私が今年度のミステリベスト5から本作を外したのも、このあたりが引っ掛かったからです。
そうはいっても本格として極めて高品質でハイレベルな作品集であることは疑いようがありません。文章もあっさりめで謎解き偏重の端整なミステリのため、物語性は殆ど排除されていますが、純度の高い本格をお求めの方は是非ご一読を。
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